プラクティカル・サイクリング 2022-2023

プラクティカル・サイクリング(Practical Cycling)は2022年4月から2023年3月まで実施したIAMAS(情報科学芸術大学大学)の萌芽プロジェクトだ。IAMASでは修士課程の授業科目としてプロジェクト実習があり、萌芽プロジェクトはその準備段階にあたる。このプロジェクトの責任者は赤松正行(筆者)で、研究分担者は松井茂と瀬川晃。プロジェクト開始にあたって以下の構想を掲げていた。

任意グループ、クリティカル・サイクリングの約6年間の実践を踏まえ、自転車を対象とするプロジェクト実習の実施可能性を検討することを目的として1年間の萌芽プロジェクトを実施する。

手法としては、クリティカル・サイクリングが自転車に乗ることを批評的に捉えようとしたことに対して、プラクティカル・サイクリングは自転車にまつわる何らかの実践が芸術的、社会的、学術的な意義に繋がることを検証する。ここでの実践とは、デザインをする、詩を作る、撮影をする、コースを作る、走行する、などが挙げられる。

研究参加者の実践は定期的に報告と意見交換を行い、最終的に簡単なレポートにまとめる。そして目的である授業科目としてのプロジェクト実習の実施可能性を検証してプロジェクトの成果とする。

つまり、研究としての目的や方向性を持たず、制約のない実践を重ねる中から今後に繋がる可能性が浮かび上がることを狙ったわけだ。そこで参加メンバーは各自の興味と狙いに従って活動を行い、成果のフィードバックを行う。メンバー間の連絡や協議はSlackを用い、時にはZoomでのミーティングも行った。プロジェクトとしての自由度が高いだけに各自の自主性と独創性が求められていた。

自転車と詩作

数々の批評活動でも知られる詩人、松井茂はプラクティカル(実践的)なサイクリング(循環)として「自転車をめぐる散文詩」を寄稿。毎回の導入は「『自転車をテーマに詩を書け』と依頼され…」と請負仕事のように思わせながら、実際には彼の本領が遺憾なく発揮されていた。読者としての筆者は寄稿のたびに感嘆することになる。それは「詩」の可能性が生々しく脈打っていたからだ。

自転車とデザイン

IAMASでは出版物などの監修も務めるグラフィック・デザイナーの瀬川晃は「Practical Cycling デザインことはじめ」と銘打って自転車にまつわるデザイン・ワークを展開した。シンボル・マークの制作過程から回転をモチーフにした創作まで、豊富な図版に簡潔な説明が添えられていた。まさにプラクティカル(実践的)な知性と感性のサイクリング(往復)は、何度も見返す魅力に溢れている。

自転車とツーリング

クリティカル・サイクリングの主宰者でもある赤松正行(筆者)はナショナル・サイクル・ルートなど国内ツーリングを行った。これは自転車道の整備や観光資源の充実を目安に対象を選定した。従って享楽的な物見遊山の要素がある一方で、遠方に出掛けて未知の道路を走ること自体が求道的な奮起と覚醒を引き起こす。これもまたプラクティカル(実践的)なサイクリング(周遊)であった。

以上のように萌芽プロジェクトとしてプラクティカル・サイクリングを行い、実践から導かれた創作や報告は膨大な数にのぼった。そして本質的な目的である「今後に繋がる可能性」として、翌年度(2023年4月)から始まる「運動体設計(Visions in Motion)」を構想するに至っている。自転車を含めて広く「動き」を実践し考察するプロジェクト実習だ。その活動は始動している。乞うご期待。

【追記】プロジェクト外部研究員による「自転車実走の線 – 活動報告」が公開されました。(2023.03.31)

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