大井川流域を走る (1) 上流・湖畔ライド

静岡県の大井川に出かけ、その流域を自転車で巡った。たまたま夢の吊橋奥大井湖上駅の写真を見かけ、興味を持って調べるうちに魅力的な地域だと感じたからだ。しかもRIDE Oigawaと銘打ってサイクル・ツーリズムも展開されている。そこで鉄道を利用して上流まで輪行し、そこから下流へと自転車で下ることにした。江戸時代に越すに越されぬと詠まれ、今はリニア中央新幹線問題で揺れる川でもある。

RIDE OigawaのPDFより湖畔ライド

7月の晴れた日、Bromptonを輪行して新幹線とJR在来線を乗り継いで金谷駅に到着。ここで大井川鐵道に乗り換える。実際には所用があって自走し、一つ先のクラシカルな駅舎の新金谷駅から乗車。購入した切符は昔ながらの硬券、輪行自転車は手荷物料金が必要で古風な荷札が渡される。構内には古めかしい車両が並んでいる。この時点で既にタイム・スリップ感満載。

新金谷駅

人口減少や産業衰退で過疎地の鉄道は廃止されるのが一般的。大井川鐵道も同様の状況だが、蒸気機関車(SL)や機関車トーマス号の運行など鉄道そのものをアトラクション化することで存続をはかっている。筆者が乗った普通電車(16000系)は1966年製で老朽化しているが、清潔感があり、自転車などの固定場所も設けられている。回転対座シートに座り込み、大きな車窓を流れる風景をゆったり眺める。

大井川鐵道大井川本線の車内

大井川の中流の千頭駅で乗り換え。ここからの井川線では車両(スロフ300形)がグッと小さくなり、一般的な自転車輪行なら苦労しそう。途中からはアプト式機関車が連結されるほどの急勾配もあり、トンネルや橋も多い。車輪が軋ませながら、左右に迫る崖や樹木の中を疾走するのは迫力満点。日本でもっと高架な鉄橋など見所が多く、要所要所で車掌さんが観光アナウンスをしてくれる。

アプト式機関車

落石による不通区間があり、終点の一つ手前の閑蔵駅で下車。つまり、一区間はBromptonで上ることになる。これは走り始めで体力があり、激坂ではないので何とかこなす。その後はダムが堰き止めた井川湖の西岸を走る。アップダウンは少なくて走り易く、乳白色がかったエメラルド・グリーンの湖面が美しい。ちょうどランチ時になったので、ビジター・センターでワサビ丼をいただく。

ワサビ丼

この日の最終到達地は井川大橋。全長258m、耐荷重2トンの大きな吊り橋で、そのままBromptonで走り抜ける。木製の橋桁の振動や吊り橋の揺らぎに緊張が高まる。湖面からの高さは60mもあるので、眼をやるにも勇気がいる。一台ずつ渡るルールだが、渡橋中に他の自動車がやって来ると立ち往生しそう。自転車なら数台でも大丈夫とは言え、共振作用でとんでもないことになるに違いない。

井川大橋

続いて夢の吊橋を渡る。有名な寸又峡のそれより小さく短い吊橋ではあるものの、揺れを強く感じて冷や汗が流れる。Bromptonに乗って渡るには卓越した勇気とバランス感覚が必要。さっさと諦めて押し歩く。ちなみに、この橋に至るには急な階段を下り、その後は上らなくてはならない。よって道路脇に自転車を置いて徒歩で向かうのが正解。筆者はBromptonと重い荷物を抱えて息も絶え絶えだった。

夢の吊橋(井川)

不幸は続く。廃線跡を利用した湖畔遊歩道だ。レールと枕木やバラストがそのまま残されている貴重な道。放置とも言えるるが、定期的に清掃されている様子。ただ、レール内もレール脇も凸凹が大きいので、タイヤが太いマウンテン・バイクでなければ走破できない。押し歩くのも力が必要で、涼しい木立の中なのに汗だくになってしまう。曲芸師ならBromptonでレールの上を走りたいところ。

湖畔遊歩道

最後に、湖を作り出した井川ダムの上を往復して湖畔ライドは終了。このダムの建設のために井川線が敷設され、ダムの完成によって村落の一部が湖底に沈んでいる。先の井川大橋もダム補償のひとつらしい。近年は過疎化が進んでいるものの、それでも小中一貫校があり、何軒か旅館もある。釣りやキャンプに訪れる人も多く、星空も素晴らしいそうだ。この辺りで宿泊したいなと思いつつ、湖を離れる。(続く

井川ダム(下流側)

【追記】「大井川流域を走る (2) 中流・秘境ライド」を公開しました。(2022.07.21)

【追記】「大井川流域を走る (3) 下流・河川敷ライド」を公開しました。(2022.07.27)

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