大井川上流の湖畔ライドを終えて、寸又峡の宿に向かう。そして翌日は大井川沿いに下って市街地に戻ることを予定していた。この地域のサイクル・ツーリズム情報RIDE Oigawaでは、秘境ライドと温泉ライドと呼ばれる中流域のコースに寸又峡への往復が加わることになる。走行距離は長めではあるものの、下りであるので楽な行程であるし、一泊して疲れを癒すことができる。皮算用は完璧だ。
まず、井川ダムから元に道に戻るまでの上り坂。Bromptonは6速でも、斜度6%を超えるあたりから辛くなる。しかもこの日は吊橋への階段や凸凹線路の遊歩道で体力を消耗していた。ここは無理をせずに押し歩き。そこからしばらくは下り坂なので、ペダルを漕ぐこともなく快調に進む。ところが、その後に平均斜度13%もの激坂が1km以上も長く。まったく無理。押し歩いていても辛い。
ようやく坂が終わり、トンネルを抜けて左の側道を入ると奥大井湖上駅を眼下に見渡す絶景スポット。息も絶え絶えで見る風景は彼岸の極楽浄土。何時間か前は山岳列車で鉄橋を渡り、駅に降り立って周囲を眺めたことを思い出す。しかし、それとはまったく印象が異なる鳥瞰的な眺望。深い木々と静かな湖面の緑に赤い鉄橋が映えて、御伽噺の挿画のよう。自然と人為が溶け込んでいる。
さて、この道沿いから寸又峡の宿まで直線距離なら3km弱。楽勝のようで実際には山越えをしなければならない。西へと横切る山道は心細いので、一旦道を下ってから北上する。登坂距離は長くなるが、熊に襲われる危険性は減る。汗だくになりながら、急な上り坂をBromptonを押して歩き続ける。喉が無性に乾くが、整備された道端に湧水は少ない。いつしか曇天となり、雨が近いのか空気が湿っぽい。
なんとか峠を越え、長い下り坂にブレーキを握る手が痛くなる。気がつくとビンディング・サンダルの足にはヒル。むしり取ると出血が止まらず、足が血まみれに。疲労で倒れかけながら宿に着く頃には夕闇が迫っていた。散々な目に遭っただけに、宿の湯と食事は何よりも有り難く、至福の境地。そして夜半に降り出した雨に気づくこともなく、昏睡状態で眠っていた。
翌朝小雨の中、出かけた夢の吊橋は霧に包まれ、夢幻の彼方に消え入るように続いている。細木細工のような繊細で幾何学的な構造が美しい。しかも他には誰もいない。苦労して寸又峡に来た甲斐があったと言うもの。白い霧が漂う水面はコバルト・ブルーの鏡。そう、ここもダム湖だ。水量豊かな大井川水系は至るところで堰き止められ、静かで雄大な絶景を作り出している。
雨は時折小降りになるものの、止みそうもない。もう一度険しい峠越えを自走する気になれず、バスで大井川鐵道の千頭駅に向かうことにした。輪行袋のBromptonは小人料金で持ち込み可能だった。そこから先も濡れた下り坂が危険なことを言い訳にして、レトロな電車(21000系)で新金谷駅に戻る。大井川の中流域を下って楽々ライド…と当初考えていた皮算用は大きく外れてしまった。(続く)
【追記】「大井川流域を走る (3) 下流・河川敷ライド」を公開しました。(2022.07.27)
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