阿智村でARサイクリング

名古屋方面から中央自動車道を進み、8.6kmもの長い恵那山トンネルを抜けると長野県阿智村だ。この地の昼神温泉は長野出身の知人のお勧めで、日本一の星空としても観光に力を入れている。しかも世界初の観光サービスと謳うARサイクリングもある。寒さが厳しくなりつつあった年末に、星が綺麗なのは冬!寒空でこそ温泉!とうそぶいて出かけることにした。

阿智に着いて何はともあれACHI BASE(阿智☆昼神観光局)に赴く。カフェを併設した観光案内所で自転車などのレンタルも行っている。ARサイクリング自体は僅か100円と安価で、ARグラスとスマートフォンが手渡される。自転車は電動アシストのママチャリで、レンタル料は半日1,200円と良心的。ただし、マウンテン・バイクやクロス・バイクはARに対応していない謎仕様。

ARグラスはEpsonのBT-30Cで、スマートフォンはSamsungのGalaxy S10。となればUSB Type-CのDisplayPort Alternate Modeだ。アプリでは現在位置によるナビゲーションを行い、文字や図形の背景を黒で塗り潰すだけでお手軽AR。ケーブルがまとわりつき、イヤフォンで音声を聞く即席セットアップ。ARグラスのカメラによる空間認識やモーション・センサーによる視界推定といった高度な機能はない。

実際のARサイクリングも辛い。アプリはNAVITIMEのカスタム版で最適化されていないからだ。路面振動でARグラスが揺れるにも関わらず、ほとんどの情報が小さいので読み取れない。表示される矢印や写真も的確ではなく混乱する。位置判定が柔軟でなく、特に方向が特定されないのはナビとして致命的。あまりにもストレスなのでARグラスを投げ出し、途中からはスピーカーで音声を聞くだけにした。

さらに昼神温泉周辺はサイクリングに適していない。山間の道路は狭く曲がりくねって自転車レーンはない。ママチャリでは怖いほどの急な下り坂があり、電動アシストでも躊躇する上り坂もある。ここは軽量で電動アシストのロード・バイクやグラベル・バイクを用意して欲しい。また、隣町へ出かけるコースは途中にARポイントがないので、単なるサイクリングになるのも残念。

筆者はBT-30Eを所有していて新型クループ・ライドに活用してきた。なので事前情報でおおよその見当がつく。それでも出かけたのはARサイクリングに期待するからだ。デバイスもアプリもコースも問題が多いとは言え、果敢な事業化に拍手を送りたい。最初の一歩がなければ、続く一歩もないのだから。このようにして自転車のデジタル・トランスフォーメーションが始まる。

ところで、ママチャリはARサイクリングに適している。上半身を起こした姿勢でゆったりとペダルを漕ぐのは、周囲を見回す余裕が生まれるからだ。機材ケースを入れていた前カゴは余裕たっぷり。Neural Engineを満載したMacBook Proも置けるので、高速なAI処理による洗練されたAR体験が得られるだろう。GPUコンピューティングするテスラのように、自律走行する自転車も実現できるはずだ。

やがて晴れていた空は曇り、気温が下がってきた。宿に戻り、冷えた身体を熱い温泉に沈める至福。だが露天風呂に雪が舞い始める。これでは星空撮影ができない。さらに翌朝は一面の銀世界。長野では問題ないものの、雪に慣れない名古屋方面は大混乱。自動車道路は軒並み通行止めで、トンネルから先へ行けない。身動きが取れず、もう一泊する羽目に。そう、冬は星が綺麗とは限らない。

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