富士山麓樹海をトレイル・ライド

霊峰富士の山麓に広がる青木ヶ原は、昼間でも薄暗く鬱蒼とした原生林。平安時代の大噴火によって溶岩流に覆われ、焼き尽くされた森林が、長い年月をかけて蘇っている。その死と再生の特異性ゆえか、道を外れると元に戻れない、コンパスやGPSが狂う、自殺の名所で遺体が散乱といった噂が、まことしやかに語られる。そんな樹海を巡る自転車ツアーがあると知って出掛けた。好奇心は猫をも殺す。

ガイドをしていただいたBonVeloの坂本さんによれば、青木ヶ原は車両の乗り入れが禁止されているとのことで、隣接する森林を巡るコースに変更。樹海に似た地形と植生であり、たっぷりトレイル・ライドが楽しめると言う。しかも用意されたのは電動アシスト&ディスク・ブレーキのマウンテン・バイク、BESVのTRS XC。これで鬼に金棒、虎に翼……いや、違った。ナマケモノに杖、か。

絶叫響く富士急ハイランドの横を抜ければ、すぐに林道に入る。いわゆるツー・トラックの轍で凸凹と荒れているものの、傾斜は緩く電動アシストなので苦もなく走り抜ける。晴天の明るい陽光が木々に差し込み、野鳥が囀る自然の楽園。絶妙のペース配分でガイドをしていただき、休憩時には富士山の自然や歴史の説明を受ける。倒木、溶岩、トリカブト神話など盛り沢山。にわか富士山通になった気分。

上りの後半は一般道で、アスファルトが自然に還りつつある舗装道路。時折は自動車が通りかかり、走っている人や歩いている人にも出会う。中の茶屋を経て馬返に到着。かつてはここで馬を返して徒歩で上り始めたそうだ。吉田口登山道の一合目であり、狛犬ならぬ猿が守る鈴原天照大神社がある。霧が立ち込む山小屋で熱いコーヒーをいただき、しばしローカル談義に耽る。

下りはツアーのハイライト。まずは一般道をダウンヒル。平地より数度は気温が下がり、風を切って長袖の春ジャージでは寒いほど。次いで獣道のようなトレイルに突入。緩やかな下り坂なので、ハンドルとバランスを取るだけ。だが、道なき道を辿り、倒木をくぐり、崖を越えなければならない。アドレナリン噴出、阿鼻叫喚。やがて少しは慣れて周囲を見回す余裕が生まれ、深い森の生態系に溶け込んでいく。

富士山に、一度も登らぬ馬鹿、二度登る馬鹿、と言うそうだ。一方、原生林は何度も走りたくなる魅力に溢れている。晴れた日であれば輝かんばかりの緑が美しい。これほど気軽に非日常を堪能できるのも珍しい。それは富士山麓の自然の素晴らしさとともに、親切で熱心なガイドのおかげでもあった。初心者向けの難易度なので、筆者のように経験が少なくても大丈夫。機会があれば是非、体験して欲しい。

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