鹿児島の離島を巡る (2) 種子島ライド

屋久島一周(ヤクイチ)ライドは叶わなかったものの、種子島への高速船の出航には間に合った。貨物料金を支払い、自転車を輪行袋に入れて運び込む。水中翼船なので揺れや振動がなく、夕暮れの穏やかな海を滑るように進んでいく。宮之浦港から西之表港まで45分間、最高速度は時速80kmを超えるそうだ。種子島では可愛い赤灯台が出迎えてくれる。そう、ここはロケットの島だ。

到着した港で予約していた軽トラックを借りる。荷台にはテントや寝袋などのキャンプ用品が積まれ、さらに自転車2台を乗せる。草枕の旅を望んだ訳ではない。お隣りの馬毛島でアメリカ軍の訓練などに使う自衛隊基地が建設中で、工事関係者が島中の宿や車を押さえているからだ。種子島は臨時のバブル景気に沸く一方で、観光客や観光関係者は困り果てているらしい。

軽トラックで1時間ほどかかって種子島南部の宇宙ヶ丘公園に到着。すでに辺りは薄暗い。小降りながら雨も降ってきた。小さなライトを頼りにテントを張る。同行した知人も筆者もキャンプ経験はゼロ。片隅にあった説明書に気が付かず、パズルのように試行錯誤する。そして島の夜は早い。なんとか食事には間に合ったものの、温泉は諦めざるを得なかった。

翌朝は軽トラックでロケットの丘展望所種子島宇宙センターなどを回る。本来はH3ロケットの打ち上げを見学する予定であった。それが何度も延期となり、最終的には1ヵ月近く後に打ち上げは失敗に終わることになる。ただ、打ち上げ前には閉鎖されるゲートが開いており、大崎海岸から発射台のすぐ近くまで近づくことができた。大型ロケット組立棟(VAB)にはH3が格納されていたはずだ。

自転車がミニマムであるのに対して、ロケットはマキシマムなモビリティだ。ロケットが人工衛星を地球の周回軌道に乗せる速度は時速28,440km。筆者がロード・バイクを懸命に漕いでも時速40kmほどなので、実に711倍だ。一方でロケットは自転車のように誰もが気軽に乗れるわけではない。せめて「ウは宇宙船のウ」のように毎週土曜日の朝に発射して欲しい。だが、それもまだまだ遠い未来のようだ。

H3ロケットの発射(2023.03.07)Photo by JunpeiWada

それでは宇宙から地上に戻ろう。軽トラックから自転車を降ろし、種子島北部の港に向けて走る。この時、知人と筆者とで自転車と軽トラックとを交代しながら数kmずつ走った。これは軽トラックが自律走行しないからだ。本当は二人とも自転車で走り、ナイト2000よろしく後から追いかけて欲しい。これは個人用の宇宙ロケットより早く実現するだろう。人が運転するのは余りにも馬鹿馬鹿しいのだから。

ともあれ、種子島の南部から中部にかけては高台になっており、北西の海岸に向けて緩やかに下っていく。海岸線の道路は平坦で直線的、海が近く開放的で気持ちが良い。交通量も少なめで、車道から分離された自転車レーンが設けられている区間もある。ただし、その自転車レーンが砂で埋まっていたりもする。今回は走っていない東部はサイクリング情報によると走り甲斐がありそうだ。

このようにして港に至り、再び高速船で屋久島に戻る。自転車を返却し、今度はレンタカーに乗り込む。降り始めた雨は次第に激しくなり、一時は車の運転が危ぶまれるほどの豪雨となる。もっとも雨に悩まされたのはこの時だけ。屋久島は雨の島とも呼ばれるだけに、幸運だったようだ。そして雨の合間には、干潮時だけ現れる海中温泉を暗闇の中で堪能することができた。

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