鳴門海峡の両岸を走る (1) 南あわじライド

淡路島の南と四国の北東を隔てる鳴門海峡は、渦潮で有名な海の難所。両側から触手を伸ばす特異な地形を繋いで大鳴門橋が架けられている。この橋は自動車道の他に鉄道部分を持ちながらも、その敷設可能性はゼロに近い仰天構造。そこで、新幹線がダメなら自転車があるじゃない、と地元では気勢をあげているらしい。これは無茶振りのようで未来を暗示している。それを確かめるべく彼の地に出かけた。

新幹線で輪行して京都に移動し、そこからは知人のミニバンに同乗して淡路島を目指す。つい先日まで世界最長だった明石海峡大橋を渡り、淡路島を縦断して南端近くの陸の港西淡で自転車を降ろす。ここはサイクル・ステーションが併設されており、レンタサイクル、整備工具、更衣室など設備が充実している。しかし休日なのに利用者はゼロであり、広い施設に虚無感が漂う。

この施設は周辺3市が共同で提唱するASAトライアングサイクリングツーリズムの一環。他にサイクリング・コースの設定や周辺の飲食宿泊などの紹介も行なっている。ただし、公式サイトでの情報提供は通り一遍で、調べようにも詳しい内容が分からないのが残念。そもそもASAが何か分からないし、何かと長い名称など破綻が多い。一方で、短編映画3部作まで制作するといった力の入れ方が可笑しい。

ともあれ、初日は推奨コースの一部を変更して南淡路を回る。最初に南下して海辺に出た後、海岸線を西へ進む。路面の状態は良好で走りやすい。ほぼ全域が片側一車線の対面通行で、交通量は多くはないものの、路肩が狭いので安全性は心もとない。ブルーライン等は僅かで、時折、アワイチの路面標識が現れる程度。それほど複雑ではないが、道を間違えたことも何度かあった。

次いで鳴門海峡を望む岬を目指す。これが執拗なアップダウンの繰り返し。久々に電動アシストのないロード・バイクだったので心臓が踊り、筋肉に乳酸が滲み出す。海を眺めながら走りたいのに、大半は山中なので辛さ倍増。それだけに岬に出て海峡と橋が現れると感動もひとしお。ちょうど潮流が激しくなり、何艘かの観光船が近づいている。狭い海峡なので、急流の川のような白波が見て取れる。

岬から戻ると島の西岸を北進する。海沿いの道は眺めも良く、平坦で走り易い。巨大な風力発電プロペラが立ち並び、風が強い地域らしいが、この日は心地良い微風に過ぎない。軟弱者としては、サイクリングはかくあるべしと思う。途中でイタリアン食堂に立ち寄ってランチ。淡路島特産の新玉ネギのピザが絶品。サイクリスト慣れした親切な対応も嬉しい。

その後は白い砂浜が続く景勝地、慶野松原で小休憩。明るい日差しに打ち寄せる波も穏やか。微かな潮風に磯の香りが混じる。そのまま寝転んで午睡を貪りたくなる。そんな気持ちを我慢して、最後は東に向かって内陸部のスタート地点に向かう。これで淡路島南西部を円型に44kmほど回ったことになる。アワイチが150kmなので3割に過ぎないものの、それなりに疲れていたのも確か。

宿は港近くの古びた観光ホテル。館内の一部をサイクリスト向けに提供しており、バイク・ラックや整備工具はもちろん、コイン・ランドリーや洗車場所も用意されている。温泉で疲れを癒してから夕暮れまでに時間があったので、丹下健三設計の公園へライド。これが絶景の高台にあり、またしてもヒルクライムで汗をかいてしまう。これも夜に新鮮な魚介をいただく腹ごしらえ、と言うことにしておこう。

さて、最初の話題に戻って、鳴門海峡を自転車で渡れるようになるだろうか? 市内の要所要所には「大鳴門橋に自転車を!!」と訴えるノボリや看板が立っている。すでに四国側からは全長の4分の1ほどの遊歩道が整備済み。強風と渦潮見物渋滞への対策をすれば、自転車道が敷設できそうだ。ただ、兵庫県高速道路推進室によれば、技術的な検証段階であり、実現が決定したわけではないとのこと。

かつて運行されていたフェリーは廃止を余儀なくされた。結果的に淡路島と四国は自動車でしか往来できない。自動車の利便性や経済性は高いとしても、歩行者や自転車でも同じように橋を利用したい。自動車税やガソリン税は他の交通手段の充実に費やすべきだろう。特定財源として自動車を偏重してきた歪みの是正だ。この海峡を渡る多様性があってこそ、地域が豊かになるに違いない。

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