三重県四日市市市街地近くの伊坂ダムはこじんまりとしたダム湖を持ち、全長3.6kmの周回道路ではウォーキングやサイクリングができるように整備されている。その伊坂ダム・サイクル・パークでは各種レンタサイクルを提供しており、手ぶらで気軽に遊びに行けるのが嬉しい。実は数年前に訪れたことがあって、そのB級ぶりに感心していた。そして今回近隣で空き時間が生じて再び訪れることになった。
ここではタンデム自転車をレンタルできるのが有り難い。各地で公道走行が可能になっていても、タンデム自転車自体が珍しいからだ。以前はママチャリじみた安心設計タイプに乗って苦労したので、今回はKHS TANDEMO SPORTを借りる。変速機付きで太めのタイヤは安心感がある。ただ、サドルの高さが調整できないようになっており、快適なポジションが取れなかったのは残念。
タンデム自転車は2人で漕ぐので2倍のパワーになる。しかも、車重は2倍より少なく、空気抵抗は1人乗り程度なので、効率良く走行できる。なるほど、これなら映画のように長距離ツーリングにも適しているのだろう。2人が息を合わせてペダルを漕ぎ、バランスを取るのは、思ったほど難しくない。特に前の席なら一人乗り自転車に近い感覚だ。
もっとも後ろの席はハンドルはあっても動かないので、バランスを取ろうとしても取れない。これはもどかしいし、危険を感じてしまう。そこで自転車に乗っているとは思わず、推進力を提供するだけのモーターに徹する。これで却って自由に振る舞えるようになる。また、前後のペダルが連動しているのも窮屈に感じる。ただ、これもそのうちに慣れて気にならなくなった。
今回は3人で訪れたので、タンデム自転車に加えてママチャリを借りた。他に子供用の自転車は補助輪付きもあって充実している。子供連れの家族が想定されているようで、ロード・バイクなどはない。ただ、それなりに上り坂があり、タンデムは平気だが戦車のようなママチャリは泣きそうになる。押し歩いている人も多い。普段は乗ることのないママチャリの重量を味うには良い機会だった。
ファミリー向けの真骨頂は変り種自転車のオンパレード。パンダやイルカを模した自転車もあれば、スポーツ・カーやパトカーを模した自転車もあり、2人乗りや3人乗り、さらには4人乗りや6人乗り自転車まである。いずれも3輪や4輪なので、転倒しないのがミソ。それでも自転車と言い張るのはペダルで漕ぐからだろうか。自転車とは何ぞやと、そのアイデンティティを考えるのも楽しい。
もっとも興味深かったのは横に進むカニ走り自転車や車軸がズレていて上下に揺れるイルカ自転車だ。身体感覚が揺すぶられるのは逆さまペダルや逆さまハンドルに似ている。すべての自転車が子供用なので、大人が乗ると窮屈な姿勢を強いられるのも面白い。周回道路とは別に短い専用コースが設けられており、30種類近くの変り種自転車を次々と試すことができる。
このように伊坂ダム・サイクル・パークは昭和感溢れる脱力系のB級自転車公園だ。爽快さや躍動感を求めるにはツラいが、のんびりユルユルと半日を過ごすにはうってつけ。欲を言えば、さらにユニークな自転車を増やして欲しいところ。リカンベントやトライク、ローイング・バイクやハーフバイク、それに一輪車や水上自転車なども楽しそうだ。各地に競合があるだけに、さらなる進化を期待したい。