『世界に学ぶ自転車都市のつくりかた』刊行

このたび、編著書『世界に学ぶ自転車都市のつくりかた』(副題:人と暮らしが中心のまちとみちのデザイン)が学芸出版社から刊行されました。かねてより接触のあった、未来への広い視野を持って自転車利用推進に関わっている方にお声がけし、その結果、私・小畑和香子さん・南村多津恵さん・早川洋平さんという執筆陣でこの一冊を編むこととなりました(担当編集は岩切江津子さん・岩崎健一郎さん・安井葉日香さん)。今回はこの本の紹介(というか宣伝)です。

『世界に学ぶ自転車都市のつくりかた』書影。装丁はドイツ在住の星野恵子さん。写真はBuilding the Cycling City著者Melissa & Chris Bruntlett夫妻の撮影による、アムステルダムの日常風景の一コマ。車の交通量と速度を抑えた「自転車通り」を、親子と思われる二人が横に並んで自転車でゆく。お子さんは乗れるようになって間もないのだろうか、背中に添えられた手から、人の暮らしの温度が伝わってくる。こうした移動が当たり前にできる環境デザインが自転車利用を伸ばし、車に依存しない社会への変化を加速させる。

本の概要

ざっくりどんな本か、については「まえがき」に目を通して頂くのが早いと思いますので、以下に引用します。

 世界では今、自転車都市を目指す動きが加速している。車中心の100年で失われた人のための街路を甦らせるため、社会に関わる機会の格差解消のため、また気候危機対策として、あらゆる年齢・能力の人に徒歩や公共交通とともに自転車が「選ばれる」環境づくりが進んでいるのだ。
 表題から窺える通り、本書では欧米の先進・新興自転車都市をめぐり、「ニーズ」「デザイン」「都市戦略」の3つの観点から、それぞれの土地の暮らしと自転車の関係、インフラ整備の重要性と進行度、世界の共通課題と結びついた政策の位置づけと展望を読み解く。
 コペンハーゲン (1章)からは生活に溶け込んだ日常自転車文化の価値とユーザー目線の環境デザインの基本を、自転車利用度トップのオランダ(2章)からはその「ママチャリ文化」を育んだ市民の働きかけ・高度なインフラ・仕組みづくりを学び取れるだろう。北米のストリート改革を牽引してきたニューヨーク(3章)、19世紀末に世界的な自転車ブームを生んだ国の首都ロンドン (4章)、近年の街路再編のスピードが突出しているパリ (5章)は、これから日常自転車文化を(再)獲得しようとしている都市がインクルーシブなデザインを重視し奮闘する姿をありありと見せてくれる。市民の盛んな訴えかけが続く自転車中堅国ドイツの今(6章) は、車大国の硬直性と男性中心の交通という根本問題を突きつけてくる。
 2部構成の後半では、まず滋賀を例に国内地方部の自転車まちづくりの現場を覗き(7章)、先進的で普遍的な日本の日常自転車文化と、それを環境整備で支えてこなかったゆえの現状、世界とともに未来へ歩むための道を論じる (8章)。締めくくりは、世界の知見を凝縮した自転車通行空間デザインの図解だ(9章)。
 多くの人の明日を変える一冊になっていれば嬉しい。

合わせて目次もご覧になると、より概要が掴み易くなるはずです。9章を除く各章の3つの節はそれぞれ、「ニーズ」=人々の暮らしと自転車、「デザイン」=自転車環境のデザインと実装、「都市戦略」=社会の中の自転車政策を扱っています。

  • まえがき
  • 第1部 世界の先進/新興自転車都市
    • 1章 コペンハーゲン 世界の日常自転車ルネッサンスを刺激する街 ――(宮田浩介)
      • ニーズ 自転車が暮らしに溶け込んだ「ライフ・サイズの街」
      • デザイン デザイン思考=ユーザー目線の「バイシクル・アーバニズム」
      • 都市戦略 たゆみなき自転車環境整備は民主的な都市のため
    • 2章 オランダ 世界一子どもが幸せな「自転車の国」の設計図 ――(宮田浩介・早川洋平)
      • ニーズ 利用度ナンバー1の国の「ママチャリ」文化
      • デザイン 圧倒的に安全快適なインフラの充実と洗練
      • 都市戦略 「人の造った国」オランダと自転車の半世紀
    • 3章 ニューヨーク 闘う交通局長がリードした北米のストリート革命 ――(宮田浩介)
      • ニーズ アメリカ随一の都市が求めていた脱・車中心の街路
      • デザイン 戦略とデータで街路を変えたサディク=カーン交通局長
      • 都市戦略 北米各地で進む、人のためのストリートの復権
    • 4章 ロンドン 自転車を広め、そして忘れた国の日常利用再興 ――(宮田浩介)
      • ニーズ 漱石に「自転車日記」を書かせた街の今
      • デザイン 自転車の都への回帰というパズルの様々なピース
      • 都市戦略 健やかな発展のための全国的「アクティブ交通」推進
    • 5章 パリ 自転車メトロポリスを現実にする市長のリーダーシップ ――(小畑和香子)
      • ニーズ 自由が乱れ咲く都の交通空間格差
      • デザイン 強きを抑え平等をもたらす街路再編の本気度
      • 都市戦略 コンパクトでみなにやさしい光の街のビジョン
    • 6章 ドイツ 車依存からの脱却を! 市民が先導するモビリティシフト ――(小畑和香子)
      • ニーズ 道と未来を車から取り戻す鍵としての自転車
      • デザイン 車中心から人中心へ、自転車インフラ刷新は進行の途上
      • 都市戦略 「自転車の国」の夢を語る車大国の現在地
  • 第2部 日本の自転車政策ーー現状と展望
    • 7章 滋賀 市民発の、ツーリズムによる自転車まちづくりの展開 ――(南村多津恵)
      • ニーズ 環境保護アクションとして始まった湖国の自転車まちづくり
      • デザイン 市民による草の根のサイクルツーリズム整備
      • 都市戦略:自転車まちづくりは市民と行政のチームワークで
    • 8章 日本〈総論〉 今よりもっと自転車が選ばれる社会へ ――(宮田浩介・早川洋平)
      • ニーズ 顧みられてこなかった豊かな日常自転車文化
      • デザイン ユーザー目線が抜け落ちた日本の自転車インフラ
      • 都市戦略 日本のまち×自転車の未来をめぐる5つのポイント
    • 9章 設計カタログ 世界品質の自転車通行空間デザイン ――(早川洋平)
  • あとがき

内容サンプル

中身も少し見て頂けるよう、サンプルページをいくつか転載致します。

「ニーズ」節サンプル(コペンハーゲン)

まずは「1章 コペンハーゲン 世界の日常自転車ルネッサンスを刺激する街」から、ニーズ節「自転車が暮らしに溶け込んだ『ライフ・サイズの街』」の冒頭部を抜き出しました。最初の小見出し「家の中を歩くように自転車で街をゆく」は、今の世界の目指す方向性を端的に言い表したフレーズだと感じます。

都市計画やまちづくり、道路利活用の文脈では昨今「ウォーカブル」がしきりに語られていますが、自転車でのまちなかの移動の体験は歩行時のそれに近く(その拡張形といってよいかもしれません)、車の中に閉ざされ周囲から切り離された移動体験とは大きく異なります。そんな自転車での移動を「車と同じ」と扱ってきた米英などの国々では自転車利用が長らく低迷し、今まさにそこからの脱却が図られています。「文化」などとわざわざ意識されることのない、真に成熟し社会に浸透した、コペンハーゲンやオランダの諸都市のような日常自転車文化を手に入れる(取り戻す)こと。そのために、車に脅かされることなく便利で快適に自転車で移動できる環境デザインが重視されるようになり、実装も進んできているのです。

「デザイン」節サンプル(オランダ・北米・日本)

次にデザイン節のサンプルとして、北米でどんどん増えている「保護型」自転車走行空間、オランダの道路交差部の改修例(の一部)、そしてこれらから大きく遅れをとっている日本の自転車レーンの現状を置いておきます。

デンマークからニューヨークが取り入れ北米各地に広まっているパーキング・プロテクテッド型のレイアウトは日本でも採用しているケースがあるものの、「ドアゾーン」余白を設置・明示していないという欠陥を抱えたものになってしまっています。

オランダでは交差点も保護型にすることがあまりに普通で、それを区別して呼ぶこともないほどですが、英語圏でもこれをプロテクテッド・インターセクションと呼んで採り入れる動きが進む中、日本は周回遅れ状態にあります。自転車利用度は世界3位なのに、その価値が正しく評価されず、環境整備も質・量ともに足りていません。

「都市戦略」節サンプル(パリ)

各章の最後に配されている都市戦略の節では、前述の通り「社会の中の自転車政策」を追っています。自転車利用を伸ばす世界の諸都市の空間や制度のデザインが、政策上どんな位置を占めていて、どんな動きが起きているのか。サンプルは、自転車レースで知られているものの日常利用は全国平均で日本のわずか1/5程度というフランスの、それを変えようと街路改革を加速させている首都パリから。

パリおよびフランスは自転車関係の購入・サービス利用補助金がとても強力で、車依存からの脱却に対する本気度が伝わってきます。デザイン節の末尾も載っていますが、個々人による所有・管理の手間やコスト(盗難リスクも含む)が自転車利用のハードルになっていること、立派な車体でなくともまちなかの移動という用途には足りるシェアサイクルなどのサービスの充実が重要であることが窺えるかと思います。

9章(空間デザイン図解)サンプル

巻末の9章は、これからの理想的な自転車通行空間のデザインを図解した非常に贅沢な章です。本書では現行の道路構造令と自転車空間ガイドライン(※これはガイドラインの正式名称ではないです)の問題点を指摘した上で、それで終わることなく、世界の知見を踏まえた具体的な理想像を提示しています(早川さんの労作)。サンプルは、現状からの遷移が分かる、幹線道路での整備手法を扱った見開きページです。

ラジオ番組での紹介

11月9日、Tokyo FMのラジオ番組「サステナ*デイズ」(毎週木曜11:30-13:00放送、パーソナリティーは渋さ知らズの玉井夕海さん)にゲストとして呼んで頂き、本書の紹介などを致しました。お聴きになりたい方はアーカイブからどうぞ。リクエストして流して頂いたArcade Fireの曲Sprawl Ⅱは権利の問題でアーカイブに入っていませんので、公式ミュージックビデオをご覧下さい。

刊行記念イベントin福岡

11月下旬には福岡にお招き頂き、本書の刊行記念トークイベントで登壇致します。ご都合よろしければ、ぜひ。

  • 日時:11月24日(金)19:00~20:30
  • 会場:九州大学芸術工学部デザインコモン(オンライン参加も可能です)
  • 費用:無料

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