柳サイクルでクロモリフレームをオーダー #4:新しい相棒Cozmoとバイクパッキングへ

11月11日から13日にかけ、2泊3日のバイクパッキングに出かけた。組み上がったばかりの新しい相棒=柳サイクル「 Cozmo(コズモ)」のフィールドテストを兼ねた、未舗装路を積極的に走る野営旅だ。今回はこの道中の様子を中心にお伝えしたい。

前回記事

Day 1:高原から高原へ、グラベルルートで峠越え

旅とフィールドテストのジレンマ

11月11日朝、高原の駅まで輪行。Cozmoは輸送も楽だった。組み立てを済ませ、水を補給し出発。食料は持参したものに車内販売のパンなどを追加。
清々しい秋晴れの日だ。トラクターもゆく舗装路をちょろっと走り、橙色のカラマツ林の合間、煙の立ち昇る農地の道を詰めてグラベルの起点へ。
グラベル道は山並の北側をトラバースしているが、植生と季節柄もあって陽がよく届き、明るい。砂利の粒もマイルドで、草刈りも行き届いているらしく快適だ。
Cozmoは軽快によく進む。けれどまだお互いに相手をよく知らない。
バイクパッキングに出たら、対話すべき相手は道具ではなく、周囲の世界(そして自分自身)だ。
道具のテストは旅のスパイスになる。そしてそれはスパイス程度に留めておくのがいい。だが実際、自分の意識はCozmoにばかり向いていた。
今回の旅に際し、ハンドルバーはDixnaバンディーのMからLに交換。一方でステムは初期構成と同じ50mmと、設計時の想定より10mm短い。バーが幅広になれば上体は前に引き込まれるが、まだ乗り手の重心が後ろに偏っているのか、前輪がいまいち落ち着かない。
Cozmoのリアセンター : フロントセンター比は1 : 1.42。設計のベースにしたLe Mansは1 : 1.39。ボトムブラケットからの距離が短い方に体重は多く配分されるので、計算上はCozmoの方が少しフロントが軽いことになる(このことは分かった上で数値を決めている)。
ヘッド角はLe Mansが約72度、Cozmoが71.5度。オフセットは70mm、57mm。トレイル(ステアリング軸の延長上からタイヤ接地点までの距離)は、Le Mans(40mmの700Cタイヤ)が42mm程度、Cozmo(47mmの650Bタイヤ)は55mm程度。ざっくり言ってトレイル値が大きいほど外からの入力への反応は鈍くなるが、低速での前輪の倒れ込みは強くなる。
タイヤのトレッドパターンや空気圧(そして荷物)も操舵感に影響する。太いタイヤ(特に低圧時and/orスリックタイヤ)は舗装路ではグリップ過剰となり、舵角がつき始めるとニューマティック・トレイルによる強い切れ込みが生じる。摩擦係数の低い未舗装路ではこの性質は弱まるが、今度はタイヤの食いつきの甘さが気になってくる。滑り具合をみて空気圧を段階的に落とす。
今回の旅の荷物。サドル後ろのハーネスには寝袋、トップチューブバッグに携帯工具とぼろ布。トライアングルバッグにはクッカーセット、ガス缶、シェルターのペグ。ダウンチューブ上にチューブ2本と修理キット。腹下にシェルター用ポール。フロントラック上のバッグにマットとシェルター、輪行袋。フォーク横に水分。これに加え15Lリュックに食料、衣類、ビヴィーサック、化粧品、救急セット、充電関係、カメラ。
峠まであと少し。
峠で頃合いの石に腰掛け、腹に食料を入れる。ランチが済んだら、5mm分のコラムスペーサーをステムの上から下に移す。ハンドルバーのドロップ側を使う下りで、どうもフロントに寄りかかり過ぎになってしまっていたからだ。サドルの位置と角度も、ここへ至るまでの小休止の間に調整した。

乗りこなし方を探りつつ、20kmのグラベルを抜ける

再出発し南へ下り始めると、風景が北側とはずいぶん違っている。パスハンティング(峠狩り)には狩った峠の数や標高をトロフィーとする側面もあれど、土地の変化をまざまざと体験できることが何よりの魅力と思う。山々と谷川の流れ。それらと向き合ってきた人の営み。集落間のルートにその峠が選ばれた理由、時代による盛衰。辺りの木々はどうしてそこに生えている(植わっている)のか。今そこにどんな生き物がいて、人間との関係性はどうなっているか。そして自分はどんな生き物としてそこを通ろうとしているのか。
自分が走る南側のグラベルは、峠のすぐ南から西進するトラバースルートだ。東進してきた北側と対称をなすような立地ながら、樹林の密度が高く、緑と褐色のミックスに包まれている感じが強い。
砂利の粒は平均してこちらの方がやや粗いものの、これといったガレや倒木、崩落もなく、快適で静かなダブルトラックが続く。
北から入った理由の一つは日照で、峠を越えた後の20kmのグラベルを最悪でも日没までに抜けられればよし、と計算してきた。蓋を開けてみれば、ロードバイクで十分と思える滑らかなフラットダートが殆どだった。楽な区間は早足で駆け抜け、眺めのよいところに出たら小休止がてら写真を撮る。
陽が傾いてきた。
名の知れた山々。
人がこれらの樹を植え、この色彩がもたらされた。
山の南面でも東側は早く陰に沈む。
少し退屈でさえあった優しい未舗装トラバース道は、里に出ていく手前からぐっと下り始める。
砂利の粒も少し大きくなり、隠していた表情を見せ始めたようで面白い。
漕ぎ足さずともスピードの出る斜度の下りでは、左右のクランクを水平付近にもってきて両踵を下げ、ペダルを土台にして体重を下半身で支える。 “Light hands, heavy feet.” ターンでのフロントの挙動は、リーンアウトでカウンターステアを多めに入れてやると割と安定するようだ。だがその姿勢をとるにはサドルが邪魔で、ドロッパーシートポストが欲しくなる。
グラベルの終端付近で、仕事中の林業の方に挨拶。舗装路に出たらもう一つ小さな尾根を越える。いよいよ日没が近いが、もう心配するようなことはあまりない。
何か甘いもののように見える山々。
墨絵のような擁壁の肌と、鮮やかに色づいた木々の葉。
油断していたら、脱いでいた手袋の片方を落としてしまった。捜索範囲を見誤り小一時間を無駄にしたが、無事に発見・回収、すっかり暮れた道を南の高原へ向けて走る。元々ナイトライドは想定内だ。穏やかなところであれば、夜の中を漕いでゆくのは楽しい。
キャンプ場に着いてセンターハウスでシャワーを浴び、シェルター設営、夕食。天候も安定していてさほど冷えないので、シェルターのドアは全開のまま就寝した。4時前にトイレに起きると、月が天頂付近で輝いていた。

Day 2:峠をめぐり、きゃんつー集いへ

朝からグラベル/段々と低くなるステム

2日目は「きゃんつー集い」へ。薄暗い中、下半身を寝袋に入れたまま朝食をスタート、徐々に片付けつつ体内に栄養を蓄えていく。
一夜のおうち。
8:30に出発するとすぐ、短いが結構きついグラベルの登りが待っている。物理的にも精神的にも、ずっとフィールドから離れずにいられるのが野営の素晴らしいところだ。
舗装林道に出て山裾をトラバース。山の彩りがにぎやかで愉しい。
川を跨ぐと間もなく目当ての未舗装林道が始まる。評判の良いグラベルルートだが、序盤はフラットダート率が高くてちょっと物足りない。集い会場への道のりは長いので淡々と漕ぎ進む。
途中から砂利がちょっと深いところが出てきた(粒は大きくない)。フロントもリアもフワフワしてズルズルとトラクションがかからない。ステムを20mmくらい下げると改善。カウンターステアを入れる具合に慣れたからだろうか、下りでもハンドルバーに寄りかかって固まってしまうことはなくなった。
ここでは鹿に遭った。
飯盛り系の山。
あの辺りを歩くのも楽しそうだ。
まじうまい。
峠が近い。
結局ステムはベタ下げになった(上向きでの使用だし、そもそもヘッドの高い車体だが)。色々なところを走る自転車のポジション出しは難しい。

山を縫う道の傍ら、人と過ごす時間の嬉しさ

峠から先は全て舗装路だ。登るか下るかの山岳ルートで、距離も40km強。補給スポットもゼロに等しい。秋と冬の境界域を、澄んだ空気を呼吸しながら黙々とゆく。
10月末、このエリア一帯にはまとまった積雪があったそうだ。軽トラを駐めて休憩していた男性が教えてくれた。辺りの鳥類の写真をずっと撮っているという。こういう時間がとても楽しい。
里から離れてはいても、この日は人との遭遇が多かった。自転車の人とも二度ほどすれ違ったし、モーターサイクルの人は計10名くらい見かけただろうか。結構なメジャールートなんだな。
若きカラマツたち。
まだ秋の中。
小集落を見下ろすカーブ。この後だったか、ドライブに来ていた男女と話した。紅葉の時期の恒例コースとのことだ。「嫌いでなければ」とくださったスニッカーズは美味しく、ありがたかった。
最後の登りを終えて高原に出ると15時過ぎだった。そこでも地元の方々から色々と情報をもらい、防寒モードに切り替えて集い会場へ下った。
16時頃に到着、かかり枝と寝心地をチェックしてシェルターを設営(撮影:Daigoman)。
他の参加者の面々と焚火を開始。それぞれに夕食を済ませ、やがて酒も入って深夜まで談笑となった。怖かった山のこと、ある人から許可を受けなければ通れない道のこと、オーストラリアや北米大陸横断のこと。焚火を囲んでの時間はいつも不思議なくらいあっという間に過ぎる。

Day 3:グラベルでわいわい遊び、里へ

グループライドは意識を外へ向けてくれる

3日目は6時くらいに起床。
起き抜けに味噌汁。
それぞれの寝床。
落葉広葉樹林は落ち着く。
7時前にはまた焚火が始まり、のんびりした朝となった。天気予報では午後から雨とのことだったが、都合のつくメンバーで少し一緒にサイクリングを、ということで、ルートを話し合うなどする。
集いは10時過ぎに解散、自分を含む数名はグラベルを経由して里に下りることに。途中までは関西から(!)遠征参加の二人も同行してくれて賑やかだった。
自分たちのルートの前半は登り。概ね舗装路で、グループライドのペースだと前40T後ろ最大36Tのギア比がきつい。前日、前々日の疲れも蓄積している。汗だくになりながら遅れてついていく。
この辺から下り基調。
旅する仲間たちの自転車。
ルート上のピークを過ぎたくらいから、路面は未舗装メインになった。モチベーションがもりもり湧いてきて、先頭に出る。ステアリングの癖はまだ感じるが、御し方は分かっているし、仲間と走っていると機材よりも周囲に意識が向く。
仲間の一人が往路でも通ったというこの道は、フラットダート、砂、マイルドなグラベル、雨裂が刻まれた下りと、表情豊かで面白かった。そして何より、そういう環境で皆でキャッキャしながら遊ぶのが単純に楽しい。幸いなことに天候も崩れることなく、むしろ陽が射していた。
かなり雨裂が激しい区間(撮影:Daigoman)。
この先で峠道は終わり、自分たちは整備の行き届いた舗装路で一気に街へ下った。そういうところを数羽で飛ぶように駆け抜けるのも大好きだ。
駅のそばでランチをとり(一人は先に撤収)、輪行で帰巣。電車で隣のボックス席にいたグループの方がダイゴマンの見せた写真に対し「青春してるのね」と言っていたのが可笑しかった。
撮影:Daigoman

セッティングの模索は続く

こんな具合で、3日間のバイクパッキングは充実した旅となった。一方、Cozmoのフィールドテストをそこにぶつけたのにはちょっと無理があった。Cozmoはその軽快さと推進性能によって今回の行程を全体として楽にしてくれたが、Le Mansと同等にフィーリングが合ったかというと、まだそういう段階には至っていない。新しい道具と自分とのシンクロ率は、慣れたルートの日帰りライドなどで高めていくのがベターだろう。

Cozmoは近場でのさらなるテストを経て、現在フロントタイヤがサイドノブのあるセンタースリックに、ステムも70mmになっている。50mmのステムでは、ハンドルバーからの入力が前輪の左右方向の動きに過剰に変換されていたらしい(ちょっとした修正舵が効き過ぎてしまう)。ステムを60mmにしたところこれが緩和されて前輪のグリップ感も良くなり、カウンターステアを保持する意識もあまり必要なくなった。舗装路・未舗装路それぞれにおけるタイヤの挙動の癖も、パターンの違うものに履き替えたことで改善された。そしてその結果、70mmのステムがマッチするようになった。リーチが長くなり過ぎる心配もあったが、ブラケットポジションでもドロップポジションでも、両手をバーから浮かせた状態で無理なくBB上でバランスをとることができる。

60mmステム下向き・ベタ下げでテスト。
乗り回すうちスペーサーは積み増され20mmに。
サイドノブのあるフロントタイヤに交換。
このタイヤだとステムは70mmでOK。

自分のことも自転車のこともそこそこ分かっているつもりで、細かい指定を行い作ってもらったCozmo。そんなオーダー車でも、しっくりくるセッティングは試行錯誤を重ねて掴むしかない(その過程がまた面白い)。次回はCozmoの「その後」をお伝えし、シリーズの一応の結びとしたいと思う。

Cozmoはウィーリーがしやすい!

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