大垣〜新潟470kmロングライド 道中編2日目

疲れ果てて辿り着いた敦賀。翌日の天気は雨だった。

8時に起床し、身支度を始める。

コンビニ飯で朝食をとり、レインコートを着て、コンビニで購入したゴミ袋でバッグを覆った。

疲労&雨で、朝から気が落ち込む

口数の少ない朝だったが、ちょうど他の部屋の掃除をしていたホテルのオーナーに軽く挨拶してから、少し気が楽になった。

9時に出発。

まずは第1目的地として鯖江に辿り着くことを目標とした。

2日目の道のり(地図の表示時間は徒歩の検索結果)

今日は山を越えることが課題である。

どれくらいの時間で雨中の山登りを終えられるのか、体力はどれくらい削られるのかわからない。山を越えないことには、その先が予想できず、計画が組めない。昨日のうちに山を越えられなかったことが僕たちを焦らせた。

この時はまだ、雨の日の山登りがこんなにもしんどいなんて、想像していなかった。

まず最初に宿を出て始まったのは、おばあちゃんによる街の解説だった。突然声をかけられて、始まった。僕は他人のふりをしてしている。相方だけが頷き、会話をしていた。満足しておばあちゃんが立ち去る頃には、雨がドシャ降りだった。

「さぁ、行くか」そんな感じでゆるゆると出発したと思う。最初はコンビナートのような場所を越えて、坂を上がって下る、そんな道を繰り返していた。途中から雨が強くなり、レインコートの中は、ドラムのスネアドラムみたいにタタタッと音がする。雨が激しくなるほど、音が激しくなり、道も険しくなった。

自転車にナビとして取り付けているスマホが防水仕様で良かった。スマホが防水であることに初めて有り難みを感じた。両手のグローブは走り始めて数十分で雨が浸透してグジュグジュに。防水って重要だなと思い知らされた。

僕たちは、左側が崖、右側が車道のギリギリの道を走るようになっていった。海の景色は一瞬で見飽きて、僕らを吸い込みそうな深い色をしていた。オレンジや黄色の工事車両やトラックがそばを超えていく、大きな声で前に向かって「クルマっ!」と叫んだ。雨の音が声をかき消すが、微かに伝わるのか、相方は頷く。

滑らないように、車輪越しに伝わらないはずの、地面の感触を足で掴もうとする。必死だった。昔どうにもならなくて見た夕日と同じ涙の味が口の中で広がった。涙かなと思ったけど、鼻水だった。

雨の影響と鉄の塊がすぐそばを高速移動する恐怖心によって、昨日の疲労が体全体に押し出されてくる。山に入ると傾斜がきつすぎて、僕はほぼペダルを漕ぐことができず、自転車を押して歩くので精一杯だった。

トンネルを越えるとまたトンネルに入る。中で車に轢かれた蛇を見つけた。後ろからはトラックが轟音で横を通り過ぎる。僕は「クルマっ」と叫ぶ、完全に僕の声は消え、連続的に続くトラックの音が僕を包む、僕は存在しないんじゃないかそんな気持ちになりながら、「クルマっ」と叫び続ける。気がつくと僕はクルマに叫んでいるのか相方に叫んでいるのかが分からなくなった。

いくつもの登り坂を越え、12:00前に道の駅に到着した。

南条郡南越前町周辺

ここで少しのトイレ休憩をした。全身びしょ濡れで屋内に入ると、周囲から視線を感じる。少し居心地が悪かったので、暖かい飲み物を購入してすぐに外に出る。お互いに精神的な限界がきていたが、気持ちを吐露し合うことで楽になった。

道の駅から出発した矢先、事故が起こった。

先頭を走る僕がスリップして転倒してしまった。転倒した僕に大丈夫?と叫ぶ相方も、直後にスリップして転倒。相方は無傷だったが、僕は上下数枚重ねて着込んでいた服を突き破って、右肘と右膝に怪我をしてしまった。幸運にも擦り傷で済んだが服には穴をあけてしまった。スリップの原因は地面に貼られたタイルで、雨で滑りやすい状態になっていた。「こんなところに装飾性なんかいらないよ!」と心の中で叫んだ。

ようやく山を越える道程の中間地点までやってきた。残りの道のりは下り坂が続くだろう。速度を出して早く目的地に到着したい気持ちもあるが、既にスリップを経験している僕たちは下り坂に対して人一倍警戒心を持っている。滑りにくい地面素材の上を走行するよう気を配りながら下っていった。そんな中、相方が乗っている自転車はキィーという雄叫び(ブレーキ音)をあげていた。相方はこの現象をフェニックス(不死鳥)と名付けていて、笑えた。

破けた服の穴から入り込む雨水が体をつたい、徐々に体力を奪っていくため、とにかく漕ぐことに集中することで身体的疲労を無視しようと努めていた。何回も叫んだからか、街につく頃にはお互い声がガラガラだった。

身体が水浸しで冷えていた僕たちはある物を見つけてしまった。

市民ホールつつじ

「サウナ・浴場」という文字が視界に入った。即決だった。体力がない状態でこの先どうするか考える余裕はない。ゆっくりできる場所が必要だ。自転車を建物の裏手の駐車場に停めて中に入る。受付の方はずぶ濡れの僕たちを見てギョッとしていた。浴室利用は大人一人420円。市民ホールつつじの事務員さんが優しく、換気扇の下に脱いだ濡れた服を乾かして下さった。風呂につかった僕たちは笑顔を見せるようになった。

入浴後、浴室のそばの休憩室でこれからの旅程を考え直すことにした。

出発前の計画では、2日目に金沢に到着しているはずで、宿泊場所としてゲストハウスを予約していた。市民ホールつつじから金沢へ行くには、90km程度の距離がある上に、なにより山を越えなければならない。僕たちは昨日の夜中の山登りによって、暗闇に対する恐怖心を植え付けられている。この時点ですでに15:00を回っていたため、夜中に山を登ることになるのではと恐れていた。最終的に、金沢のゲストハウスの予約をキャンセルし、山の手前の福井米松で宿泊、明日に山越えし、金沢に到着することに決めた。

ここで、明後日までに新潟に到着することは不可能であると判明した。

今回の旅は気候の影響とライドの経験不足によって完遂することができない。

悲しいが、少し気持ちが楽になった。今日と明日の目的地が決まっただけで良い。宿泊場所で具体的な計画を立てようという話になった。

体は温まったが、服は濡れたままである。まずは装備を乾かさないと再度出発はできないと考え、最寄りのコインランドリーに行くことにした。

コインランドリーZABOON 鯖江店

服が乾いたのは16:40ごろ。

コインランドリーを出発する頃には完全に雨が止み、快適に漕ぎ出せた。目的地までは16km程度で、1時間半程度のサイクリングだ。体を洗い、服を洗うと、ものすごくお腹が減っていた。しかし、あまりガッツリ食べすぎるとペダルを漕げなくなる。悩みながら自転車を漕ぎ続けていたら、丸亀製麺を見つけた。この2日間きちんとしたご飯をとっていないことに気づき、暖かい物を食べたい欲望が溢れ出した。

丸亀製麺 福井店

元気そうな高校生たちが丸亀製麺から出てくる。大きな声で明日の話や漫画の話をしていた。彼らが話す横で僕たちは自転車をとめ、店に入る準備をする。高校生たちは、話し終えて去っていった。夕日はとっくに沈み、ゆっくりと夜の寒さを実感した。中に入ると暖房が効いていて、指先の感覚がちょっと敏感になった。せわしなくうどんを作る男性に、とりあえず何かのうどんの大盛りを頼む。あとは適当な天ぷらを皿に入れ会計に進む。1,000円くらいだった。まぁまぁするなぁと思いながら席に座って食べた。黙って二人で食べた。隣ではやっぱり高校生が明日の話をしていた。

疲れた体にしみわたる丸亀製麺だった。

宿泊場所のネットカフェで、就寝前に今後の計画を、後に合流する塩澄と森田に共有することにした。電話口の僕たちの声を聞くやいなや、塩澄は声質に違和感を感じたらしく驚いている。道中の声かけにより、僕たちは声変わりしてしまっていた。

今後の計画を話した。新潟には辿り着けないこと。金沢から富山へ行く時と、富山から新潟に行く時には山を越えなければならず、僕たちの残りの体力と照らし合わせて、それらを乗り越えるのは難しそうだということ。明後日の天気は雨であり、ここで頑張って再び雨中に山登りを決行するのは自殺行為だと判断した。

結論として、金沢で自転車旅行を終えることにした。

塩澄、森田と金沢で合流する。計画では新潟で合流予定だったが、金沢で車に自転車を載せてもらい、僕たちも一緒に乗り、新潟に行くことにした。

明日、金沢までできるだけ起伏のない道を走ることができるように、Googleマップで道のりをあらかじめ具体的に選定することにした。

3日目の道のり(地図の表示時間は徒歩の検索結果)

2日目の総走行距離はたったの50kmだ。昨日の暗闇に加えて、僕たちに雨への恐怖心を植えつけたライドだった。

次回の大垣〜新潟470kmロングライド道中編3日目は12/21に更新。記事全体の構成は、準備編、1日目、2日目、3日目、4日目(振り返り+まとめ)の5つからなる。

2 comments

  1. ツーリング記録ありがとうございます。冷たい雨の中での様子が臨場感あり思わず頑張れと応援していました。

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