柳サイクルでクロモリフレームをオーダー #5:馴染んできたCozmoと「ワン・バイク」の夢

フレームセットを受け取ってから2ヶ月余りになるYanagi Cozmo。#4で書いた3日間のバイクパッキングの後でセッティングが見えてきて以降、自分とのシンクロ度が急速に上がった初めてのオーダー自転車は、早くも1台で何でもこなす「ワン・バイク」に近い存在になりつつある。今回はそのあたりの感触を綴り、本シリーズの結びとしたい。

生活圏の小宇宙をかき回す自転車

自分の生活圏には、ありがたいことに都市部としては珍しく多くの未舗装路がある。自転車に跨がって5分で武蔵野の土を踏み、それから1時間はほぼ舗装路に出ることなく、雑木林の残るエリアをウロウロできる。自転車のセッティングの簡易テストや乗り方の練習、運動不足の解消、季節の進行の確認、等々、名目はどうあれ毎日のように同じようなところを徘徊し、軽く跳ねたりしているのだが、持ち出すのは最近Cozmoばかりになっている。これは意識的にそうしているというのもあるし、楽しいから自然に、というのも大きい。

Yanagi Cozmo

Cozmoの前身にあたり、設計のベースにもなったLe Mans Sportifは、やはり段差のあるトレイルのようなところでは無理をさせている感じが強い。乗り比べることでそれが際立つようになると、近所でもわざわざ荒っぽい使い方をする場面は減る。ハンドルバーが一回り狭いものに換装されるなど舗装路寄りに仕様変更されたLe Mansは、盗難リスクが相対的に低いと考えられることもあり、もっぱら仕事場への移動や買い物などで活躍している。

Miyata Le Mans Sportif改

手元にある自転車のうちで最も悪路に強く色々な動きの練習に適しているリジッドMTBも、近頃は待機が続いている。その気になればどこへでも行ける車体なのだが、他と比較してしまうと舗装路の走行が楽しいとはいえず、近所の土の上で乗り回していると、そこに閉じ込められているような感覚に襲われることがある(たぶんステイ・ホームのトラウマも重なっている)。

Cove XC系MTB

日々、身近な小宇宙を新たに探索し、かつその圏内に囚われている感覚にも陥らない、そんな心身の運動に最もよく応じてくれる自転車として、Cozmoは自分の暮らしの中に定着しつつある。そうなっている理由は総合的な越境力の高さだと思う。

抜きん出た越境性を持つATB

CozmoもLe MansもCoveのリジッドMTBも、まとめて呼ぶならATB = All Terrain Bike(オール・テレイン・バイク、あらゆる路面に対応した自転車)だ。いくらかの振れ幅はあれど、自分がやりたいのは結局のところ(日頃の生活圏も含む、そこから地続きの)越境的な旅で、だから自転車はATBになる。

Cozmoでふらり低山を訪ねる

だが「あらゆる路面に対応」といっても、それぞれに得意/不得意の濃淡はある。トレイルだと流石に苦しいLe MansとそこがメインのMTBは両極端に近く、ゆえにこれまでは割とシンプルに使い分けていた。Cozmoはこれらの2台からなるATB生態系に割って入ってきて、両者の役回りをほとんど奪ってしまったのだ。

優しいフラットダート

いつもの生活圏の外へ舗装路で足を伸ばす場面では、CozmoはMTBはもちろんLe Mansよりもスルスルと進む。そして適性ど真ん中といえるグラベルのみならず、シングルトラックのトレイルでもマイルドなところならヒョイヒョイ走れてしまう。そのリズムは元気な犬のようで、時に自分の方がついていけなくなり、一息入れるのを待ってもらったりもする。ATBにまず期待される走行時の越境性において、Cozmoは「だいたい何でも得意」という高いレベルにある。

豊かな落ち葉のトレイル

乗れないところでの押し担ぎも、3台のうちで最も楽なのは軽くコンパクトなCozmoだ。MTBと同等の低いトップチューブのおかげて肩を入れての担ぎの際に地面とのクリアランスが大きくとれるので、急斜面のトラバースなどでも取り回しがよい。MTBなら乗れたな、というセクションがあっても、サッと担いでしまえるのでネガティブな感じがしない(乗ることが何よりの目的で行っている場合は別だが)。徒歩へのスイッチが苦にならないというのは、山国である日本のATBには必須の越境性だと思う。

楽しい担ぎ上げ

Cozmoは輪行も軽快で、日帰りでふらっと出かけるにも、キャンプツーリング/バイクパッキングに行くにも、鉄道を使うことのハードルが低い。これもまた、日本の交通環境にマッチした重要な越境性といえる。

マイルドな下り

そんな具合でCozmoは、乗車時もそれ以外でも弱点のないハイレベルな越境自転車として、着実に出動回数を伸ばしていっている。

Le MansCove MTBCozmo
舗装路
グラベル
トレイル
担ぎ
輪行
街乗り(盗難リスクも考慮)
ざっくりとした得手不得手の比較

ワン・バイクの夢想を刺激する兄弟車

1台で何でもこなす「ワン・バイク」というものがあるとして、今うちにある中で最もそれに近いのは恐らくCozmoである。少し前までそのイメージはLe Mansに重ねられていたし、そこらに気軽に駐輪できる街乗り自転車としての役割を考慮すると、どちらがより包括的なワン・バイク、それさえあればいい1台といえるかは難しいところではある。兄貴分のLe Mansを取れば現実に即した守りのワン・バイク、弟分のCozmoなら不安とリスクを引き受けた攻めのワン・バイク。――もちろんこれはあくまで思考の遊びで、本気で1台に絞ろうとしているわけではない。

ワン・バイクを思い浮かべてみることは、自分の性質、求めているもの、生活のリアリティーを見つめ直すよい機会になる。オーダー車の注文にもそういう側面があるし、ATBのような汎用性の高い車種ならなおさらで、Le Mansを下敷きにしたCozmoの構想は、まさにワン・バイクを意識的に狙ったものであった。あちこち駆け回って外観がくたびれてきた頃、Cozmoはいよいよどこに置いてもさほど心配の要らない、下駄扱い上等の完璧なワン・バイク、究極に自由な自転車になるだろうか。

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