木製自転車と塗装の工房、アトリエ・キノピオ

木製自転車とカスタム・ペイントの工房、アトリエ・キノピオを訪ねた。間もなく雪が到来しそうな12月。雲ひとつない快晴ながら、信州の空気は凛として冷たい。工房は市街地から少し離れた丘陵にあり、見上げる大樹のもと、住居と作業場の木造家屋が連なっている。道端のイタリア国旗と立て看板、そして軒下のサイン。工房主宰の安田マサテルさんらが、にこやかな笑顔で出迎えてくれる。

安田さんは学生時代から自転車作りが好きで、見よう見まねで木製自転車を自作したそうだ。それを名刺代わりに担いてイタリアを回り、その甲斐あってヴェローナを代表する自転車工房ズッロ(ZULLO)で修行したのだから恐れ入る。日本に戻ってからは現工房を手作りで整えて活躍している。今回の目的ではないので控えたが、じっくりインタビューしたいほど波瀾万丈の経歴と揺るぎない信念が垣間見える。

さて、その目的はBLOCK47に導入するオリジナルのハンドメイド自転車の打ち合わせだ。自転車フレームの製作はShin・服部製作所に依頼しており、同所を主宰する服部晋也さんも同席。これでクライント、ビルダー、ペインターと三者が揃って検討することができる。ただ、世間話から技術談義まで話が弾むものの、いっこうに具体的な製作へと話が及ばない。

これは製作に具体的な要望がなく、いわゆる「お任せ」だからだ。つまり、予算の範囲内で服部さんに理想とするフレームを作っていただき、安田さんの趣向を最大限に活かして塗装をしていただく。構想から仕上げまで作家の感性や技量に一任する無茶な注文とも言える。だからこそ何気ない雑談を通して、雰囲気を掴むことが大事なのだろう。その柔軟な姿勢と秘められた情熱が伝わってくる。

工房ではフレーム塗装の下準備が始まっている。ずらりと並んだペイント缶やエアブラシが美しい。自転車は平面的な広がりが少ないので、デザイン的な制約の中で工夫をするのが大変でもあり、やり甲斐があるそうだ。これまでの塗装を写真で見るだけでも、その独創的なバリエーションに驚かされる。素人目には塗装方法の見当がつかず、説明を受けても想像できないほど精緻で大胆だ。

また、木製自転車にも力を入れており、モックル(MOCCLE)というブランドで普通自転車と小径車が作られている。いずれのモデルも展示に貸し出されていたが、その原点となった1999年製作の木製自転車を見せていただいた。金属と木を組み合わせた独特の造形に思わず惹き込まれる。オリジナル・ペイントとともに、工房には機械的な大量生産ではないハンドメイドの魅力が息づいていた。

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