NACTOの街路のパンデミック、その対応と復興

全米都市交通担当官協会(NACTO)が作成した「Streets for Pandemic Response & Recovery」は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する世界各地のストリート・デザインをまとめたもので、英語版とともにアラビア語、イタリア語、日本語、ポルトガル語、スペイン語、トルコ語の翻訳版が公開されている。日本語版のタイトルは「街路のパンデミック 対応と復興」だ。

これまでの街路(市街地の道路)は自動車で溢れ、渋滞や事故、汚染などに悩まされてきた。そこで先進的な都市では自動車を減らし、歩行者や自転車のために街路を再編成してきた。これは必ずしも迅速な展開ではなかったが、COVID-19が後押しをした。それは自動車ではなく、人間を中心に都市や道路を考えることが最重要課題となったからだ。

この様な時流を「都市が方向転換できる歴史的瞬間」と捉えた本書は、COVID-19の対策と復興へのガイドラインを明確に示している。内容は広範囲に渡るものの、長々とした文章での論説は控え目に、簡潔な箇条書きと明確な図版を中心に構成されているので、気負わずにに読むことができる。また、具体的な事例を示す各地の写真が理解を助けてくれる。レポート・デザインとしても秀逸だ。

このレポートの後半は、以下の15の観点から街路が果たすべき機能が分析されている。これには交通手段だけでなく、屋外飲食、青空市場、デモ、集会、集配などが含まれ、実に多くの役割を街路が担っていることが分かる。そして、それぞれ周囲との利害を調整し、適切に設計と実装を行い、具体的な評価もしなければならない。つまり、街路は自動車を通せば良いと言った単純な話ではないわけだ。

  • 応急サービス
  • 速度マネジメント
  • 歩道拡幅
  • 安全な横断歩道
  • 低速共存道路
  • 歩行者天国/遊戯道路
  • 自転車およびマイクロモビリティレーン
  • 公共交通レーン
  • 公共交通停留所とアクセス
  • 集配区域
  • 屋外飲食
  • 青空市場
  • 通学路
  • 抗議のための街路
  • 集会とイベント

ひとつ気になるのは、日本語版が作られた理由だ。それは日本からの要請だったのだろうか。逆に、日本語版に応える人が日本にいるのだろうか。残念ながら、新型コロナウイルスの感染を避けるために街路を見直し、応急処置的であっても何らかの対応が行われた話を聞かないからだ。日本では自転車が見直される一方で、その環境整備が遅々として進んでいないように思える。

ちなみに、このレポートをまとめたNACTOの理事長ジャネット・サディック=カーン(Janet Sadik-Khan)は書籍「ストリートファイト」の著者であり、ニューヨーク市の交通局長に続いて全米どころか全世界規模で街路の改革に取り組んでいるわけだ。その積極的で包括的な活動に敬意を表するとともに、一人でも多くの人が彼女に続くことを願って止まない。

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