先日、オランダの自転車メーカーVanMoofが日本向けのスマート・バイクElectrified Xを発表した。これは情報テクノロジーを大胆に導入した新世代の電動アシスト自転車。斬新で美しいデザインが特徴的で、無骨なバッテリーやモーターは存在しないように見える。おしゃれ自転車激戦区の神宮前にオープンしたストアを訪ね、従来の自転車とは一線を画するコンセプトのElectrified Xに試乗した。
まず、スタッフの方から説明を受ける。だが、すぐに漕ぎ出せるほどElectrified Xに乗るのは簡単。ペダルを漕げば適度にアシストされる。ただそれだけ。2段のギアは自動的に変わる。上体を起こした姿勢になるので、乗車感覚はママチャリに近い。なぜかビーチ・クルーザーを連想する。最新鋭のスマート・バイクとは言え、昔から乗っていたかのように自然であり、思わず笑みがこぼれるほど楽しい。
東京のように信号や坂が多い場所でこそ、電動アシスト自転車が活躍する。なかでもElectrified Xのブースト・ボタンに驚愕する。ハンドルの小さなボタンを押せば、アシスト力がグンとアップ。これは上り坂に苦労している時でも、平地で軽やかに巡航している時でも有効。日本の電動アシスト自転車は「頑張ったら負け」だが、このブースト機能はそれを打ち破る。しかも国内法規の規定内と言う。
これまで道路交通法が日本の電動アシスト自転車を骨抜きにしてきた。それは海外メーカーの日本進出を阻害し、国内メーカーを弱体化させる。これは一昔前のケータイや家電と同じ鎖国の構図。だが、いずれ黒船が現れ、開国を迫る。奇しくもVanMoofのオランダは、鎖国の江戸時代に、長崎の出島で交易した国に他ならない。Electrified Xは黒船だろうか?ここから蘭学が始まることを期待したい。
電動アシストの本質は、センサーとモーターを繋ぐソフトウェアに他らない。ソフトウェアを実行するプロセッサは次第に高速化・高機能化し、国内法規の面倒なルールを解釈できるようになる。もちろん、適切かつ快適にアシストし、バッテリーを長持ちさせるには、より複雑なアルゴリズムが必要だ。これこそが各メーカーの腕の見せどころ。面倒な法規を遵守するだけでは、安泰からはほど遠い。
このように進化したソフトウェアとプロセッサを前提として、Electrified Xのスマート機能が生まれる。スマートフォンによって各種の設定や確認ができるのは当たり前。リモートでの施錠・開錠は小粋。ただ、地球ロックではない。3G通信で駐車位置を確認し、探索に活用されるとは言え、そもそも盗難を避けたい。ロック状態で自転車を動かすと、警告音を響かせるようにアップデートされるだろうか?
新世代の自転車として可能性に溢れるElectrified Xは、今年の秋に発売予定で現在予約受付中。通常価格は37万円、最初の500台は25万円と、シティ・サイクルとしては高額。ブースト機能やスマート機能、そして盗難時に発見されなかった場合の新車提供サービスを含めて、この値付けが評価されるだろう。ちなみに欧米向けのElectrified Sは€2,798で約35万円。機能とともに価格もグローバルだ。
さて、1時間足らずの試乗ながら、Electrified Xの魅力を存分に味わうことができた。それは、美しい外見と自然な乗り心地に尽きる。国内メーカーの電動アシスト自転車に感じる愚鈍さと焦燥感がないのだ。これはスペックではなく、言語化しにくい感覚なので、認知されるのに時間がかかるだろう。だが、ガラケーからスマートフォンへの移行と同様に、必然の流れとなるに違いない。