アメリカの電動アシスト自転車乗り比べに続いて日本編を書こうとしたものの、どうも気が進まない。何種類かの電動アシスト自転車(以下、電アシ)に乗る機会があり、それぞれに特徴と工夫が凝らされていることが体感できた。しかし、それはドングリの背比べに過ぎないのかもしれない。道路交通法施行規則第一条の三によって、国内すべての電アシが骨抜きになっていると思えてならない。
個人的なことながら、初めての電アシ体験は、実家に放置されていたママチャリ。止むを得ない事情で乗ったのだが、バッテリーの切れた電アシは戦車としか思えなかった。次の経験は、観光地の急な坂道を上っていた時。甲高い声ではしゃぐギャル軍団に軽々と追い抜かされた。こちらは「高級」な軽量カーボン自転車に乗っていたにもかかわらず。そう、彼女たちは電アシ・ママチャリに乗っていたのだ。
このように電アシには良い思い出がない。だが、トラウマは返上したい。そこで、近郊でレンタル電アシが始まると、いそいそと出かけた。最初は精霊宿る梅谷越。そこそこの激坂を面白いように上っていく。これは快感。楽しい。次の機会には池田山山頂へ。「高級」ロード・バイクで息を切らしているヒル・クライマー達を鼻歌を歌いながら追い越していく。これはさらに快感。見事にリベンジ完遂だ。
このレンタル・サービス、養鉄トレクルでは、ママチャリ型はヤマハのPA20CC PAS CITY-C(2015年型、13.2Ah)、スポーツ型はヤマハのPA26B PAS Brace XL(2016年型、12.8Ah)がベースになっているようだ。この2つではスポーツ型が明らかにアシスト力が強い。池田山登攀では、ママチャリ型でスポーツ型の後を付いてくのに苦労した。ママチャリ型は出力を抑えて稼働時間を長くしているのだろう。
電アシは、とにかく重たい。先のママチャリ型もスポーツ型も23kgオーバー。階段などで必要があっても、持ち上げる気になれない。漕ぎ方にも大きく影響する。そこで、可能な限り軽量化したのがヤマハのYPJ-Rで、重量は15kg少々。一般的なロード・バイクと比べれば重たいが、それでも乗り味が近いことが分かる。ただ、軽量化のためにバッテリーが小型で2.4Ahしかなく、アシスト時間が短くなる。
アシスト力と稼働時間、そして全体重量は相反する条件で、どのようにバランスを取るかで製品が性格付けられる。走行中にアシスト・モードを選べるのも、その現れだ。しかし、最大の制約は道路交通法だろう。漕ぎ出しこそ恩恵を感じるが、10km/hを超えると、アシスト感が薄れ、頼りなくなる。海外の電アシのような、従来の自転車とは次元が異なる走行感は、決して得られない。
このことは、多数の試乗車が集まるイベントで痛感した。3台ほど電アシを試乗したところで飽きてしまったのだ。どれに乗っても大きな違いはなく、試乗コースではロード・バイクにどんどん抜かれるからだ。BESV LX1のように、突出した領域を狙らおうとしても、その性能は限られてしまう。ヤマハのクロス・バイク型YPJ-Cとロード・バイク型YPJ-Rとは、誤差程度にしか違いを感じらない。
現状の電アシは上り坂や漕ぎ出し、子供の同乗や荷物が重い場合に適している。言い換えると低速域では良いが、高速域ではメリットがない。実際にも、ペダルを漕げば漕ぐほど辛くなる。これを「頑張ったら負け」と呼びたい。特徴のある爽快な自転車を作ろとしても、法規制が邪魔をする。各メーカーの努力と工夫が、「頑張ったら負け」となってしまうのは残念で仕方がない。
最高速度が30km/hである原動機付自転車(原付)が免許制であることから、電アシの法規制は単独の問題に留まらない。そして、大規模な法律改正が簡単に進まないことは明白だ。議論忌避の現状維持は我々の得意技。携帯、家電、原発など次第に、あるいは突然に崩壊してきた。電動アシスト自転車など些細な問題に過ぎない。そんな矮小問題すら変革できず、かくして、この国は衰退していく。
一方で、安全性を脅かす法改正は許されないといった意見もあるだろう。安全性は勿論だが、それは法規制ではなく、テクノロジーとデザインの領域だ。例えば、漕ぐ力の伝え方が悪いので、漕ぎ出しが危険である電アシは少なくない。これは、道路交通法を尊守しているにもかかわらず、だ。つまり、法律での規制は必ずしも有効ではない。安全性を高め、危険な製品を排除する仕組みは規制以外に作れるはずだ。