オランダのVanMoof社が日本向けに発売するElectrified Xは、高度な機能と卓越したデザインを備えたスマート・バイク。このことは1時間弱の試乗によって実感することができた。その試乗の後には、VanMoof日本法人のジェネラル・マネージャーを努めるTim O’Donnell氏に話を伺うことができた。スペック的な魅力もさることながら、この電動アシスト自転車に秘められた哲学が興味深かった。
赤松正行(以下、aka): 今日は日本で新しく発売になるVanMoof社のスマート・バイクElectrified Xについてお聞きしたいと思います。これまで海外の企業が電動アシスト自転車を日本で発売することはありませんでした。ですから、これはとても重要な出来事だと考えています。
Tim O’Donnell氏(以下、Tim): その通りです。私たちもとてもエキサイティングなことだと思っています。
aka: まず、この自転車の名前はエレクトリファイド・エックスと読むのでしょうか?
Tim: はい、そうです。エレクトリシティ(電気)から来ています。そのadjective、ケイヨウシ(形容詞)です。Xはフレームの形ですね。一般的な自転車はダイアモンド・フレームと呼ばれ、三角形が2つ繋がった形ですが、この自転車はもうひとつ三角形があり、横から見るとXのように見えます。
aka: 欧米で発売されてるElectrified Sがベースになっているようですが、SとXの違いは何ですか?
Tim: 私たちは昨年(2016年)Electrified Sを発売しました。それはとても大きいです。ここにあるXは24インチのタイヤですが、Sは28インチのタイヤです。
aka: (VanMoofがオランダの企業なので)オランダ人向けですね?
Tim: 確かに。オランダ人は2メートルくらい身長がありますからね。ですから、日本向けには小さくしました。見かけも異なります。先程話したように形がXデザインになりました。さらに4色展開です。黄色や青は鮮やかだし、黒や白は差し色が効いています。私たちは新しい感覚、新しい視覚スタイルを提供したい。欧米向けのSはちょっと退屈ですよ。黒やグレイですから。
aka: 東京へのアプローチですね?
Tim: その通りです。私たちはこれを東京、いえ、日本でしか売りません。アメリカでもなく、ヨーロッパでもなく、日本だけです。
aka: なぜ日本だけですか?
Tim: そうですね、日本は特別だからです。もちろん、我々は他の国ではElectrifed Sを発売しています。でも、日本に対しては何もありません。だから、新しく始めるにあたって、独特の興味深い挑戦をしたかったのです。そのコンセプトはコンパクト・モビリティ(小型の移動手段)です。コンパクトであることは重要です。
aka: Timさんは東京で自転車に乗っていますか?
Tim: もちろんです。いろんなところに行きましたよ。近くも遠くも。シブヤ、ヨツヤ、クダンシタ、ジンボウチョウとかもね。この自転車のテストもあるし、プライベートでも。
aka: Electrified Xには多くの特徴があるようですが、どれを一番強くアピールしたいですか?
Tim: はい、とてもたくさんの特徴があるのですが、私は2つのレベルで考えています。ひとつはハードウェアです。特にブーストです。他の自転車にはブースト機能はないですからね。このブーストは特別な機能で、電動アシストに高い価値を与えます。もうひとつはソフトウェア、つまり、スマート・バイク機能です。スマートフォンを自転車に接続してコントロールできますよ。バイク・ハンターが盗まれた自転車を探すサービスは、誰もが驚きますね。
aka: ハードウェアとソフトウェアが両輪であるのは、電動アシスト自転車ならではですね。
Tim: その通りです。もちろん、デザインとしてはカラーも素晴らしいですし、電動アシスト自転車には見えない洗練された外観も優れていると思います。このように、Electrified Xには数多くの特徴があります。しかも、それらは他にはないものばかりです。
aka: 私も試乗した時にブーストが強く印象に残りました。このブーストは日本の法律に適合してますか?
Tim: もちろんです。ブーストは日本の法律が定める範囲内で動作します。ブーストしても、24km/h以上にはならないようになっています。
aka: 日本の自転車状況について、どのように感じていますか?
Tim: 東京をはじめ世界中の巨大都市は、多くの問題をかかえています。交通渋滞や環境汚染ですね。これに対して自転車は完璧な解決策になります。自転車は都市にとって優れた移動手段です。日本でも最近になって自転車専用レーンが作られていますね。この動きはさらに加速します。なぜなら、海外では成功例がいくつもあるからです。
aka: 日本の法律、特に電動アシスト自転車に関する法律は、複雑過ぎます。そう思いませんか?
Tim: いや〜(と苦笑い)、それは分かりません。それぞれの国の政府には異なる方針があり、それぞれ異なる問題に対して最適なアプローチを取ります。私たちもそうします。1年後、あるいは3年後に状況を改善したいと思っています。
aka: 文化や社会システムも国によって異なります。日本では安価過ぎるママチャリや駅前などでの放置自転車の問題があります。日本の文化や自転車について思うことがありますか?
Tim: 日本でも自転車がよく利用されていますね。ただ一般的には、それは短い距離に限られるようです。自宅から駅までとか、近所に買い物に行くとか。しかし、もう少し遠くまで行きたい人が増えるはずです。そこでElectrified Xです。大きなバッテリーで長い時間使えるので、より遠くまで行けます。乗り心地がよく、スタイリッシュです。これまでとは異なる価値を提供したい。
aka: 確かにそうですね。私も最近まで自転車や電動アシストに興味がなかったので。
Tim: 時間は必要です。何年もかかるでしょう。少しずつ少しずつしか変化しないのですから。すべてはロング・タームです。でも10年後には多くの人が電動アシスト自転車に乗っているでしょう。それは間違いありません。
aka: 日本や中国でも電動アシスト自転車が作られています。これらと較べてVanMoofの自転車の利点はなんでしょうか?
Tim: すべての自転車メーカーは、それぞれ異なる戦略を持ち、異なる哲学を持っています。その中でVanMoofは、特にデザインとスタイルに注視して、楽しく素晴らしい自転車を作っています。例えば、フレームに隠されたバッテリーは良い例です。他の自転車では大きなバッテリーが不格好に取り付けられているでしょう?
aka: あまりスマートじゃないですね。
Tim: そうです、スマートじゃない。私たちはユーザーに選択肢を提供したい。他の自転車にも良い点があるかもしれません。でも、これは凄い!これは最高だ!という自転車ではない。それはVanMoofが作りたい。今日最高の自転車を提供したいのです。スマート機能とスマート・デザインを持ち、外見が美しいだけでなく、内面的な審美性を持っています。
aka: なるほど。多くのコンポーネントは他社から提供されているので、それらを統合する哲学が必要ですね。
Tim: いや、それだけではないです。私たちは電動アシスト機能のすべてをデザインしています。バッテリーもモーターも、すべて私たちが設計しているので、完全なオリジナルです。
aka: そうなのですか、それはスゴイですね。
Tim: もちろんです。私たちはインハウス・チームを持ち、フレームはもちろん、電気設計からプログラミングに至るまで、すべて自社で行っています。そうして初めて優れた製品ができるのです。製品をシンプルにするためには、統一した哲学の元で、複雑な行程を自分たちで行わねばなりません。それが良い自転車を作る唯一の方法です。ただ、生産は他社に委託しています。
Q: 少し違う観点から質問します。Electrified Xの機能を、用途や状況に応じて変更できますか? 例えば、ユーザが希望する言語に表示を変えたり、使用する国の法律に合わたりといったことです。
Tim: それは既に実現していますよ。この自転車をニューヨークに持って行き、スマートフォンとリンクすれば、スマートフォンのGPSで現在位置を判断して、自動的にアメリカの法律に従ったアシストになります。日本語や英語の表示切替も簡単です。
aka: それは素晴らしいですね。さらに一歩踏み込んで、APIは公開されていますか?
Tim: いえ、現時点では公開していません。私には分かりませんが、将来公開することになるかもしれませんね。でも、どのように適切に公開するのかは考える必要がありそうです。
aka: スマート・バイクのような最先端の製品のアーリー・アダプターは、エンジニアリング的な興味と技術が高い人が多いですし、彼らが新しい使い方を発明するかもしれませんよ。
Tim: それは同意します。ぜひ検討します。面白い意見をありがとうございます。
aka: 今日は興味深いお話を伺うことができました。時間をとっていただいて、ありがとうございました。Electrified Xの日本での成功を期待しています。
Tim: こちらこそ、ありがとうございます。ぜひ注目していてください。
以上のように、かなり内情に迫る質問にも真摯に答えていただき、有意義なインタビューとなった。Tim O’Donnell氏はアメリカのボストン出身で、以前はRed Bullの日本立ち上げを行うなど、海外企業の日本進出を行うプロフェッショナルらしい。グローバル展開を行うVanMoof社にとっては、国際的なスタッフィングは当然だろう。ただ、半分ジョークながら、長崎の出島との関係を問う質問は遠慮した。