始まりの相馬復興サイクリング、未完のツール・ド・フクイチ

相馬復興サイクリング

東日本大震災で大きな被害を受けた福島県相馬地方の復興を伝える相馬復興サイクリングが開催された。その当日は台風24号が接近しつつあり、朝から生憎の雨模様。しかし、暴風域に入るのは夜半の見込みであったので、イベントは決行となった。安全のためロング・コースは中止となり、全員がショート・コースを走ることになった。小径車からロード・バイクまで、それぞれのスタイルでスタートを切る。

サイクル・イベントとしては派手な演出はなく、参加者は540名程とこじんまりとしている。それだけに、余裕のあるライドから心のこもったエイドまで申し分なく楽しめる。要所要所に立つ誘導員によるコース指示は安心だし、沿道で声援を送る地元の方々が多いことも印象的だった。ただ、開催主旨からすれば、震災の被害と復興を伝える資料や案内がもっとあっても良かったと思う。

コースの前半は黄金の稲穂が実る田園地帯を走る。雨でなければ麗しい秋が楽しめたに違いない。やがて、真新しい舗装道路を快走していると、周囲に何もないことに気がつく。津波がすべてを押し流し、海水が侵入した土壌は回復してないのだろう。荒涼とした海岸には荒々しく波が打ち付ける。格好の記念撮影スポットだが、あの日、何十倍もの高さの津波が襲ったことを考えると、背筋が寒くなる。

ツール・ド・フクイチ

相馬復興サイクリングは今回が第一回となる初めての開催。数年前から開催されている三陸地方のツール・ド・東北に比べて、この地域の遅れが気になる。それは津波の被害だけでなく、福島第一原子力発電所(フクイチ)の事故による放射線被害や避難指示があったからだろう。そこで、翌日は自主的にツール・ド・フクイチに出かけた。自転車でINESレベル7原発へ最接近する試みだ。

台風一過、日射しが強い青空の下、相馬からフクイチに向かって国道6号線を南下する。片側一車線ずつの典型的な地方国道。場所によっては路肩が荒れており、排気ガスと粉塵に悩まされる。ただ、渋滞はなく、概ね走りやすい。国道沿いは店舗や住宅も多かったが、海岸に向かって小道に入ると驚かされる。住宅はあっても住民の気配がないからだ。やがて散発的に工事車両が行き交う荒野が現れる。

海岸線には長大な防波堤が築かれ、海は見えない。その間を抜けて請戸漁港に出ると、工事中とのことで大半は立ち入り禁止。それでも奇妙なことに、仮設建材の見晴台へ観光バスが乗り付けている。ここから僅かにフクイチが望めるからだ。原子炉建屋などは見えないものの、数キロ先に鉄塔が何本か立っているのが確認できる。大量の放射性物質を放出したフクイチまで約7km。

ここで、見晴台から離れた安全な場所からドローンを飛ばし、海上の上空からフクイチを眺める。少し沖に出ると原子炉建屋が見えてくる。光学およびデジタル・ズームによって捉えられた朧げな姿に生気はない。この日も波が高く、次々と陸地へと押し寄せている。ちなみに、ドローンは原子力事業所の300m圏内に入れない規制があるが、今回は数km離れているので問題はない。

請戸漁港から、さらに海岸線近くの道を南下すると、色褪せた看板が現れる。ここから先は帰宅困難区域であり、立ち入りが禁止されている。浪江町の前田川を越えたあたりで、フクイチまでは4kmほど。このあたりがメルトダウン炉心への最接近地点だろう。放射線量は実測で0.17μSv/hと低い。この先へ何百メートルか進めば、急激に数値が上がるのだろうか? 何やら工事が行われ、車両が行き交っている。


ここから見る帰宅困難区域には、深い緑の草原に白いススキが生い茂り、廃屋が朽ちかけている。人が住めなくなったことは不幸だが、人知が及ばぬ豊かな自然が現れている。一方、周囲には汚染土の広大な保管場があり、無数の黒い袋の山を真っ白な壁が取り囲む。単純な可否や善悪ではない矛盾や背反に意識が混乱し、鼓動が早くなる。かつて制作した「ウロボロスのトーチ」は、この地を思い描いていた。

後ろ髪を引かれる思いながら、この後は帰路につく。その途中、国道6号線で自転車等の通行禁止を告げる立て看板に出くわす。放射線汚染が高く、車内を閉め切った自動車でなければ通行できないのだ。最後は浪江駅まで走り、残り時間10分間で自転車を輪行袋に入れて列車に飛び乗る。これを逃せば次の列車は2時間後になる。浪江駅の先は運行されておらず、不要になった線路を潰して通路が設けられている。

このようにして片道ながらツール・ド・フクイチを無事に完遂した。いや、フクイチには辿り着けないのだから、この呼称は相応しくない。負の遺産を周回するダーク・ツーリズム、実現されない憧憬ライドだ。狙ったわけではないが、Canyon x Kraftwerkの自転車にCritical Cyclingのシールを貼って出かけた。台風一過の眩い光と強い風を受けながら、Radioactivityが頭を駆け巡っていた。

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