ファデイ・ジュダーの詩「ミメーシス」

私の娘は
    自転車のハンドルに
巣をかけた蜘蛛を
傷つけはしなかった
二週間
娘は待ち続け
蜘蛛はみずからどこかへ行った

巣をはらってしまえば
蜘蛛もそこはおうちには
ならないんだってわかり
自転車にすぐ乗れるのにと言うと

娘は「そうやって人は
難民になるんでしょ?」と言った

パレスチナ難民の両親のもとに生まれたアメリカ詩人Fady Joudahによる詩 “Mimesis” を訳出した。強者のふるまい一つで「難民になる」境遇の人々の「おうち」1、そのミメーシス(模倣)のような蜘蛛の巣を、語り手の娘は、自転車に乗るのに邪魔だからといってはらおうとはしない。相手を虫けらとみなしての生と尊厳の破壊、すなわち人間が他の人間に対しても行っていることを、彼女は(相対的)強者の立場にあって「模倣」しないのだ。非人間化の壁を越えた、結びつけるミメーシスの可能性を示唆してくれる作品だと思う。

  1. 原語では精神的な「帰るべき場所」のニュアンスの強い “home”。 ↩︎

この詩を知ったのは、2月に紹介したガザ・サンバーズによる最近のX投稿を通じてだった。命と生活をことごとく破壊していったイ軍がハーン・ユーニスを去った後(ラマダーン明けの「イード」の日)、自分のhomeだった場所に初めて帰った一人の少年が瓦礫の中から大切な(三輪)自転車を見つけた様子を、ジャーナリストのAhmed El-Madhoun氏が動画で伝えた。サンバーズのアカウント担当者はこれを引用し、次のように投稿している。

何万人もの罪のない子どもたちが命を奪われ、さらに多くの子どもたちが、このジェノサイドのせいで子どもとしての日々を失った。それでもパレスチナの子どもたちは、生きること、愛、再起する力についてとてつもなく多くのことを教えてくれる。

イードの日を迎え、容赦なき包囲攻撃は6ヶ月目に入った。パレスチナの男性、女性、そして子どもたちは、いったいあとどれだけこの状況を耐えねばならないのか。

三輪車を取り戻す場面でのアフメッド・エル=マドゥーンとモハメッド少年のかけがえのないやりとりを見て、ファデイ・ジュダーの詩「ミメーシス」を思い出した

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