Apple Vision Proを待ちながら

世界の縁でポツンとたたずむ僕たち。ゴドーを待っているのかもしれないが、毒にも薬にもならない与太話ばかりしている。まれに誰かがやって来ても、箸にも棒にもひっかからない。ゴドーが誰でどんな奴かは知らない。ゴドーを待っているのか否かもあやふや。そんな2023年秋、Apple Vision Proを待っているうちに何故かMeta Quest 3がやって来た。

Quest 3はOculus系譜のスタンドアローンVRデバイスの最新版。典型的なヘッド・マウント・ディスプイ(HMD)ながら、従来の機種よりも小型軽量化され高機能化されている。前面のステレオ・カメラを使って目の前の光景を表示するパススルー映像の画質も向上しており、装着して歩き回れるほどだ。それではQuest 3をつけて自転車に乗れるだろうか? 人通りの少ない私道で試してみた。

このビデオで試走している知人の感想は以下の通り。彼は普段からBMXに乗っており、多少のトリックもできる。HMD等は体験したことがある程度で、頻繁に使っているわけではないそうだ。

  • 普通に自転車に乗って直進するのは問題ない。
  • ハンドル、ペダルを確認しようと下を向くと画面がぐらつきかなり怖い。
  • 曲がる時の距離感に違和感があり、実際より道が道が短いと感じる。
  • 白飛びなどで標識などの小さな文字は読めないと思われる。
  • 公道で走るの無理だと思われる。特に左右の確認が難しい。
  • BMXでのトリックは怖くて挑戦しようとも思わない。
  • 移動し過ぎとの警告が出るが、意外と邪魔ではなかった。

筆者もBromptonで試して同様に感じていた。特に近くの物が著しく歪んで見えるのは致命的。これは自転車どころか、机上の物を掴むといった簡単な動作でも支障をきたす。何よりも気持ちが悪く、VR酔いならぬAR酔いになる。長時間の使用は無理だ。ステレオ・カメラでの深度測定が原因らしいが、歪んだ映像を表示する必然性はない。これはデバッグ・モードか試作品レベルだ。

シラフで幻覚体験ができるQuest 3のパススルー映像

さらに表示ピクセル数が少ないのでドット感のある映像であり、色彩の表現性が低く白飛びや黒潰れを起こし、無視できない映像の遅延がある。他にも欠点が多いにしても、従来のVRに大失敗したので、ARに活路を見い出そうとしているのだろうか。しかしHoloLensMagic LeapNreal(現Xreal)など光学シースルー型のARグラスも鳴かず飛ばずで低迷している。

ChatGPT + DALL-E3が描く荒廃したメタバース

一方、現時点で唯一期待できるのがApple Vision Proだ。Quest 3と同じパススルー映像によるARながら、その体験は比較にならない。映像が映像ではなく目の前をそのまま見ていると勘違いするほどだ。HMD嫌いの筆者が何時間か連続装着しても疲れなかった。室内の使用では違和感なく自由に動き回れる。それだけに自転車でも使えることを期待したい。もっともHMDは格好悪い。それが山ほど大きな欠点だ。

ちなみにQuest 3の128GB版499.99USDに対して、Apple Vision Proは3,499USDと実に7倍もの価格だから、レベルが違うのは当たり前。しかし問題は価格や性能ではない。重要なのは実世界との接続だ。その点でOculusに始まるVR上がりのHMDは機能不全で、Facebookに始まるMetaは横暴な個人情報搾取を続けるだろう。Quest 3がPoorman’s Vision Pro(貧乏人のVision Pro)と呼ばれるのは価格ゆえではない。

Mobile World Congress 2016でのGear VRの発表風景
この光景を自ら公開していることに問題の根深さが伺える)

ところで、この手の装置をつけてロード・バイクに乗るのは至難の業だ。HMDのカメラは正面にあり、ARグラスの光学装置は上部にあるので、前傾姿勢では顔を捻じ上げない限り前方が見えないからだ。そこで上向きのカメラを取り付けて、その映像をパススルーしてはどうだろうか?これで前傾姿勢で前方が見える。空気抵抗の低減も完璧。ゴドーを待ちながら技術を無駄使いしたい。

ChatGPT + DALL-E3が描くカメラとディスプレイ付きヘルメット
(常識が邪魔をするのか完全に顔を下向きにできなかった)

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