Dark Touring 07: 成田国際空港

発着する飛行機を撮影しようと調べていたところ、成田空港の航空写真を見て驚いた。滑走路や誘導路の中に民家とおぼしき建物が写っていたからだ。優美で人工的な幾何学模様を描く空港施設とは明らかに異なる雰囲気。しかも空港の地下に道路を巡らせた立体構造が見て取れる。自動車道に沿って歩行者や自転車のための専用の側道もあるようだ。

これは、空港建設に反対する三里塚闘争団結小屋が、法規制を免れるために改築したペンションらしい。つまり、用地買収されなかった私有地であり、空港施設に取り囲まれた飛地になっている。そして通行権を保障するために地下道路があるんだろう。同じ事情で鉄塔や神社も空港内にある。そのような特異点を専用道路で回るツーリングは貴重な体験になった。

成田に着いた日は夕刻であったので、まずは成田空港の空と大地の歴史館を訪ねる。成田空港の歴史を後世に伝える常設施設で、かつて地域の誇りであった御料牧場から強権的な空港建設と熾烈な反対運動、そして開港後の状況を知ることができる。展示品では当時のヘルメットや旗、火炎瓶などが生々しく、強い印象を与える。建設側と反対派の双方の意見を取り入れ、空港が施設を運営する融和路線。

翌日は自転車処空輪で電動アシスト自転車をレンタル、初秋を感じる快晴の空のもとを走り出す。芝山千代田駅の南側から成田空港に向かって歩行者・自転車道を進み、短いトンネルを抜ければ木の根ペンションだ。外から見るに小綺麗な建物で大きなプールも備えている。だが、すぐ隣は空港であり、飛行機が間近で動いている。なお、事前に問い合わせたところ宿泊業は行なっていないとの返事だった。

次いで道をそのまま進み、成田空港の第2ターミナルに向かう。地下道や高架などがあるものの、車道とは分離された側道なので安全極まりない。ただし、入り口で尋ねて教えられた進路は間違っており、空港内の道路案内は不十分だった。迷って止むなく空港ビル内を自転車を押し歩くと、警備員が飛んできて誘導する。欧米では文句を言われたことがないので、ナリタは国際水準に達していない。

ターミナル・ビルを訪れたのは、南口3付近にサイクリング・ステーションがあるからだ。昨年秋の開設で、真新しい木製のサイクル・ラックと空気入れがある。工具セットは窓口で貸し出すようだ。自転車を停めて、展望デッキで飛行機を眺めてランチを取る。いかにも旅行者然とした人混みの中に、ラフな服装のサイクリストが混じっているのが可笑しい。いや、そのような人が増えるのが空港の望みだろう。

空港を出て来た道を引き返し、田園地帯を抜けて横堀鉄塔へ向かう。高いバリケードに囲まれた砂利道は、何台もの監視カメラと監視塔で見張られている。そして暗いトンネルを抜ければ、竹薮に埋もれた鉄塔と小屋に辿り着く。ここにも監視塔があり、警備員に声をかけられる。注意かと思いきや「中は誰もいないよ」「鉄塔は錆びているから気をつけろ」と見学を勧めるかのような口ぶり。

この鉄塔は当時1億円かけて建造された横堀要塞の一部で、飛行機の離着陸を妨害するために30mの高さであったらしい。実効性は怪しいので、より高くする計画があったのだろうか。バベルの塔竹槍部隊を連想してしまう。老朽化により高層部は撤去されているが、現在の形状でも隣りの監視塔より高い。ちなみに、歴史館の近くに残る岩山鉄塔は60mの高さだったそうだ。

その後は空港敷地を迂回して東峰神社へ。快適な舗装道路が続き楽園っぽいものの、次第に現世じみてくる。特に県道44号は道幅が狭く、交通量が多いので要注意。そして神社に向かう側道は再び両側バリケード。こじんまりとした神社で、小さな木の祠に御神体はないらしい。この反対派の拠点の前身が昭和初期に建立された航空神社となれば、何やら皮肉めいた符牒が浮かび上がる。

以上のように空港周辺は半日もあれば自転車で廻ることができる。しかも市街地を除けば安全で快適な道であり、常に監視カメラに見守られている。空港内の私有地は特異なだけでなく、この国の不完全さを物語っている。すでに多くの私有地は消滅した。華やかに見える国際空港を自転車で巡れば、過去と現在が実感できる。そして未来はどうなるのだろう?それを考えるのがダーク・ツーリングの次のステップだ。

もともとの目的であった飛行機の発着写真

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