赤松さんの羽根サンダル(「赤松さんは下駄自転車が欲しい」後編)

「究極の下駄自転車を考える」を書いた折、Critical Cycling主宰の赤松さんから「私も下駄自転車が欲しい」(大意)とのメッセージを頂いた。今回はそれを受け、ご本人との対談形式で「赤松さんのための下駄自転車」を考えてみることにした。まずは基本的な条件を検討し、「後編」でいよいよ実車を買う、もしくは組むところに追い詰めてゆきたいと思う。

赤松さんは下駄自転車が欲しい(前編)

前回このような流れで始まった「赤松さんは下駄自転車が欲しい」の後編をお届けする。どうやら氏は新しい自転車の注文を済ませたらしい。まだ納車に至っていないのが残念だが、どんな期待を抱いているかなどを語って頂いた。

宮田:赤松さん、こんにちは。その後、下駄自転車計画はいかがですか?

赤松:いろいろと考えて試乗もしてから、下駄自転車となりそうな2台を注文しました。納車は随分と先なのですが・・・。

宮田:に、2台・・・ !? なんか凄いことになってきましたね。具体的に何を注文されたかお聞きする前に、前回あまり突っ込んで伺えなかった赤松さんご自身の下駄自転車のイメージや用途を改めて話してくださいますか? ざっくり汎用性の高い自転車というニュアンスでも、やはりそれぞれの暮らしぶりなどで違ってくると思うので。

赤松:通勤や買い物など日常使いができるのが第一ですね。往復で10km以内かな。それから、これからの取り組みとしては野原や荒れた道も走れるようにしたい。いわゆるグラベルです。もうひとつ、クリティカル・サイクリングで実験的なこともするので、気軽にあれこれ試せるといいですね。逆算的に言えば、折り畳み小径車、エアロ・ロード、電動アシストのマウンテン・バイクは持っているので、それらに適した用途は下駄には求めません。

宮田:ふむふむ。折り畳みや高速巡航向けロードはそれぞれ役割がかなり絞られますもんね。悪路についてはどのくらいのとこを走る感じでしょうか? 電動アシストMTBと役割が重なる部分もかなりありそうな。

赤松:自走してバイクロアに行く感じかな。行ったことないんですけど(笑)。宮田さんが書かれている日常の冒険・都市グラベル系もいいなと思っています。電動アシストのマウンテン・バイクは21.3kgと、とにかく重たいんですよ。タイヤもゴツくて、下駄じゃなくて戦車ですね。ダウンヒルやトレイルには良いのでしょうけど、それは興味がないままなのです。ただ、前編でアドバイスしてもらったように、タイヤやフォークを替えて少しは身軽にしたいなと考えています。

宮田:なるほど。グラベルも砂利のサイズや深さ、斜度によってはトレイルよりグリップが悪くサスペンションが欲しくなることが割とありますので、他のを買われたなら電動アシストMTBはひとまずそのまま控え選手にしておくとよいかも知れません。注文している自転車は何ですか?

赤松:BESVのJG1とGiantのGravierです。個人的に注目していたJG1、宮田さんお勧めのGravier、そのまんまですね。

宮田:うわあ、それは思い切りましたね。2台というのは予想外でしたし、かなり性質の違う2台・・・いや、似たようなの2台ってのも変ですが・・・ちょっと驚きました。両方とも下駄というつもりなのですか? あるいは、乗ってみた上で何らかの使い分けが発生することも見越しているとか? 

赤松:JG1はハック用、Gravierは改造用・・・ってのは冗談ですが、まぁ、勢いで注文した疑惑もあります。下駄に近いのはGravierかな。この手のベーシックな自転車を持っていなかったので、周囲の人に自転車を勧める時にも良さそう。あと、溶接を習得して羽根とかつけたい。

宮田:勢いを感じますね。Gravierは気軽かつ意外に何でもできる自転車ではないかと思います。羽根ってのはどういうことですか?

赤松:脱線しますが、自転車で走っている姿が鳥に見えるようにしたいのです。ペダルを漕いだり、風を受けたりすると羽根が羽ばたくような。大掛かりなのは大変なので、まずはスズメくらいから。

宮田:面白い。下駄というより、ヘルメスの履いていたとされる羽根の生えたサンダル「タラリア」が思い浮かびます。2台はそんな気持ちにさせてくれるものでしたか? JG1はまさに人間の力を超えた羽根、Gravierはすぐに飛び出そうと思わせてくれるサンダルといった感じがあります。可能なら、やっぱりどちらの性質も欲しいですよね。

赤松:自転車は風に乗って空を飛んでいる気分になりますよね。映画「アバター」のドラゴンとか。あるいは鳥と友達になって鳥と並走したい。あ、いや、元の話に戻してください(笑)。

宮田:すいません、こちらも羽根のイメージで頭がいっぱいで。「下駄自転車」という言い回しは「とにかくバッと跨がって出かける」ことは表せている気がしますが、そのままどこまでも行ってしまいたくなるようなワクワク感が伝わってくるかというと、ちょっと難しいですよね。なので羽根の話はとてもいいな、と。そしてこれに関しては、自転車そのものの性能もさることながら、乗り手にとってどうなのかが鍵だと思うんです。下駄の代表格であるママチャリだって、例えば夏休みの旅に使っている中高生にとっては立派な羽根だったりするはず。実際に触れてみたJG1とGravierは、赤松さんにとっていかがでしたか?

赤松:JG1は、サイクル・イベントで試乗した限りでは乗り心地は良かったです。ディスク・ブレーキの効き具合も良好。コースの制約上、電動アシストの性能は発揮できていなかったと思いますし、グラベル・ロードとしての荒地の走行感も分かりませんが、発売(※6月中旬予定)前に試乗できたのは有り難かったです。漕ぎ出しのアシストが強過ぎる感じがしたのと、ドロップ・ハンドル内側のコントロール・スイッチの操作が直感的でないのは少し気になりました。見た目はWEBサイトで眺めた時の記憶で黒っぽい色と思っていたところ、実際には深い緑でした。軍隊っぽい色合いでサバゲーに似合いそう。深い森にも溶け込みますね。溶け込んでどうするのかな。街の中ではどうかな。

宮田:服も合わせれば野鳥観察などが捗りそうですね。樹林帯で谷に落っことしたら視認できず回収が難しくなりそう。まあそういうレアなシナリオはともかく、景色になじむとか、服に合わせやすいとか、どんな切り口であれ色が好きになれるかどうかもやっぱり重要ですよね。

赤松:熊を驚かせないためにもいいですね。ともあれ、JG1はなかなか良さそう思ったところで、次はGravierをショップに見に行きました。店舗の中央に3色揃って鎮座していて、随分と目立っていました。何と言ってもロゴが目立たないのがいいですね。これは本当に素晴らしい。ロゴはダメゼッタイ派なので、もうそれだけで買いたくなります。

宮田:あー、それはまた厄介なこだわりですね。スポーツ自転車はだいたいでっかいロゴが入ってますから。

赤松:それがカッコイイと思っている人が多いんでしょうね。Giantも巨大ロゴがほとんどなので、これは購入して応援したい。それで、第一印象で言えば、黄色のGravierはメタリック調が強くてピカピカ、逆に赤は沈んだ色合いで生気がない。一番良かったのは水色で鮮やかな発色で元気が出そう。メタリックなのに金属っぽい重たさもない。水色はホイールのリム部分が黒で、タイヤの黒との一体感があって、これも気に入りました。

宮田:Gravier Discのサテンブルーでしょうか。これは僕も好きな色です。スッキリ軽やかな雰囲気でかっこいいですね。街にも野にも似合いそう。

赤松:短時間の試乗もできたので、楽しませてもらいました。乗り心地が柔らかくて好印象した。下駄と言うより履き心地の良いスニーカーと言ったところでしょうか。舗装道路の坂道や段差も気にならない。長時間や荒地までは想像できなかったですけど、気軽な街乗りとしては気持ち良かったです。

宮田:舗装路も快適そうでうし、斜度やガレの激しくないグラベルなら十分に楽しめそうな車体に見えますね。担ぐところがあっても特に問題なさそうです。

赤松:重量は11kg強とのことで、担ぐのは楽々とは言わないまでも、苦痛ではなかったです。予備バッテリーなしで15.8kgのJG1よりは軽いものの、それほど違うとも感じなかった。ロード・バイクなら半分ほどで、指一本で持ち上げるのに慣れているからかな。どちらも「よいしょ」って掛け声が出ます。ただ、長時間担ぐことは想定していないので、緊急事態に何とかなれば良いのかな、と。

宮田:探索していると長い階段とかもあるんで、そういう場面ではGravierの方が有利と思います。あと輪行も。

赤松:わかりました。がんばります! それで試乗に行った二日後、水色のGravier Discを注文しました。宮田さんは下駄にはリム・ブレーキでいい、とおっしゃってましたが、この色はディスク・ブレーキ仕様しかなかったので。ただ、ニューノーマル需要の影響もあってか納車が8月上旬なんですよ。そのまた二日後、気がついたら納期が少し早いJG1も発注していました。

宮田:ディスクブレーキ自体はちょっと気を遣う部分もあるものの天候の影響を受けにくいなどのメリットも多いですし、車体の色が気に入ったなら断然そちらのほうがいいですよ!JG1はGravierが待ちきれないから頼んじゃった感じですかね? 晴れ渡る空を想わせるGravierに対して、自走でジャングルの道を駆け抜ける偵察隊のようなJG1。羽根の生えたサンダルはどちらなのか、気になるところです。

赤松:待ちきれないってことではないのですが(笑)、今いろいろと取り組んでいる研究の必要もあって両方お願いしました。路面のタイプとしては同じくらいのグラベルを想定しての2台とはいえ、全体的には結構性格が違います。楽しみだな。

宮田:JG1は別の狙いもあって、という感じですか。電動アシストは全く分からないので、そちらの続報も楽しみにしています。どちらも、機会があれば乗ってみたいです。そんなところで締めとしましょうか。ありがとうございました!

赤松:ありがとうございました。

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