If the constellations had been named in the twentieth century, I suppose we would see bicycles and refrigerators in the sky.
Carl Sagan “Cosmos” Chapter III
20世紀に星座を名付けるなら、夜空には自転車座や冷蔵庫座があるに違いない。
カール・セーガン「コスモス」第3章より
人や古来より夜空の星々を繋げて神や動物などに見立ててきた。今日一般的な星座は、国際天文学連合 (IAU)での1922年の採択であるものの、オリオン(神話の人物)や天秤(古道具)など古めかしい題材が多い。そこで、アメリカの天文学者であり、小説家であるカール・セーガンは、現代的な星座として自転車や冷蔵庫を提案したのだろう。ただし、冷蔵庫は引用から省略される場合が多い。
自転車の星座とは、なんとも魅力的な着想だ。ギリシア神話に登場するアルゴ座の船のように、天翔る自転車の星々が夜空を進んでいく。それはママチャリだろうか、ロード・バイクだろうか? あるいはミニベロかもしれないし、ダルマ型かもしれない。放置自転車や自動運転自転車でないとすれば、一夜をかけて東から西へとペダルを漕ぐのは誰なのか?
ただし、自転車座の形は誰も知らないので、想像または創造するしかない。例えば、Florent Bodartの手になるBike Constellationは、端正かつ雰囲気たっぷりのイラストレーションで、額装からマグカップまで様々な商品が展開されている。筆者はTシャツを購入して、胸の夜空に浮かぶ自転車座を楽しんでいる。だが、これは出来過ぎとも言える。
それは自転車の形を割り当てた空想の図形であって、実際の星々を繋いだわけではないからだ。他にも同じような作品があるものの、いずれも現実の星々との対応がない点に不満が残る。星座の起源は、規則も意味もない星々の並びに、何らかの形(ゲシュタルト)を見い出したことだ。それが何百年何千年と伝え継がれて、民族の文化となり、世界的な共通認識になる。自転車座も同じ過程が必要に違いない。
なお、セーガンは「人はなぜエセ科学に騙されるのか」などの著作で知られる徹底した懐疑主義者なので、集団幻想とも言える星座に言及しているのが面白い。ただし、彼が選定委員長を務めた惑星探査機ボイジャーのゴールデン・レコードには自転車は登場しない。これでは現代文明が滅んだ後に、地球外知的生命体に自転車を伝わらない。早急に解決すべき問題だろう。