コペンハーゲンで是非とも訪れたいと思っていたのは、XYZ Cargoだ。これまでWEBサイトで知るしかなかったが、同社は独創的で興味深い自転車を作っている。何しろ、すべて一般的なアルミの角パイプで車体フレームが構成されているのだ。しかも、オープンソースのモジュラー形式として、カーゴ・バイクやトライク、リカンベントなどのバリエーションも豊富。同じデンマークのレゴを連想させる。
このXYZ Cargoの工房は、コペンハーゲンの観光名所ニューハウン地区から歩いて10分程。もうひとつの観光名所クリスチャニアにも近い。落ち着いた通りにある工房には、特徴的な自転車が路上に置かれているので、近づけばすぐに分かるだろう。ドアをノックすると工房の主、Ion Sørvin氏が現れる。事前アポイントを取っていなかったにも関わらず、にこやかに迎え入れてくれた。
工房の前室はショールームを兼ねていて、これまでに制作した自転車が所狭しと置かれている。いくつかは垂直に自立しており、箱型のフレームを持つXYZ Cargoの特徴をうまく活かしている。人工芝を敷き詰めた広い平面を持ち、連結してモバイル公園として活用する自転車や、攻殻機動隊のタチコマを連想させる電動モーターを備えた多脚テーブルまである。すべて「移動する何か」であるようだ。
工房の後室は工作室。こちらも所狭しと工作機械や工具が並び、自転車が製作されている。3Dプリンタも備わっているものの、大半は溶接や切断などの金属加工機械だ。決して広い工房ではなく、いかにも小さな零細町工場といった趣き。乱雑なようで最適化された配置から職人魂が伝わってくる。Ion氏の他に受注状況に応じて1〜2名のアシスタントが働いているそうだ。
自転車の試乗も快諾いただいた。まず、2人乗りのリカンベント・トライクは、重量級ながら、レバーで制御する電動モーターで、ゴーカートのように進む。前二輪のカーゴ・トライク(Christianiabikes風)は、安定感に優れている。リカンベントでない三輪車は乗るのに苦労するが、これは簡単であった。前輪一輪が離れているカーゴ・バイク(BULLITT風)の独特のハンドル感にも、すぐに慣れた。
実は当初は、外観の玩具っぽさや金属フレームの重量のために、乗り心地が良くないのではないかと思っていた。だが、試乗するとすぐに、マイナス要因は皆無であると分かった。ペダリングはスムースで、車体の剛性感が高く、走行は安定している。ロード・バイクのような高速走行は期待できないものの、荷物を運ぶ自転車として極めて魅力がある。しかも、乗っていて何とも楽しいのだ。
このような精度や強度は、設計から組み立てに至るまで、細心の注意を払っているからだ、とエンジニアリングの精緻さを強調する。しかも、XYZ Cargoはアートとしての活動だと言う。このあたりの事情は、その活動母体であるN55の膨大なマニュアルやニュースに詳しい。風変わりな自転車屋さんだと思っていたら、深い洞察と鋭い意見が多く、妙に合点した次第。
自転車の設計をオープン・ソース化しているのも、アートとコミュニティの実践の一環らしい。ただし、オープンになっているのはベーシックなモデルだけ。他をオープンにしないのは、中国がコピーするからだと言う。単なる利益追求ではないが、持続可能なビジネスの実践モデルでもあるらしい。コペンハーゲンではXYZ Cargoを何度か見かけたので、確実に人々の支持を得ているようだ。
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