なにがきっかけだったのかは忘れてしまったが、ふとBIKE2SAUNAの参加者募集のページに目が止まった。一言で言えば「自転車に乗ってサウナに行く」らしい。ダート系の山道を走り、テント式のサウナに入り、傍の川に飛び込み、キャンプをする。添えられた写真やビデオからも不思議な非日常感が漂ってくる。しかも、開催地は筆者の自宅にほど近い山間なので、気軽に出かけられる。
筆者は大腿骨骨折のリハビリ中で、ゆっくりと自転車に乗れるようになったのが開催日の1週間前。これでは荒々しい山道を昇り降りするのはおぼつかない。万一転倒して足に衝撃を与えては一大事。ただ好都合なことに、集合場所には電動アシスト自転車のレンタルがある。また、10月末の山の寒さに備えて、断熱シートやシュラフなどの防寒具を整える。もちろん水着も用意して準備万端。
ところが、開催日に合わせるかのように台風22号が近づいてくる。前々日は快晴だったが、前日には雨模様となり、風も強まってくる。主催者からは、バイクとサウナは実施、キャンプは中止との連絡が入る。結果的には台風の最接近は翌日で、当日は小雨程度で風も弱かったものの、体感気温はかなり低かった。筆者は大事をとってバイクをキャンセル、午後からのランチとサウナに参加した。
Bike2sauna Meeting #2 IBI from Tent Sauna Party on Vimeo.
写真:171028 Bike2Sauna #2 by Shotaro Shiga
写真:Bike2sauna #2 IBI by MOVEMENT BICYCLESTUDIO
当日のライド記録がStravaに公開されている。山裾のキャンプ場に車を置いて、集合場所である揖斐駅まで自走。そこから粕川沿いに山間に入り、春日村の休憩所で一休み。ここまでは舗装道路だが、次いで高橋谷川沿いにダート道をヒルクライム。そしてクライマックスは岐阜のマチュピチュ上ヶ流茶園の絶景。ここで上りは終わるので、あとはダウンヒルで大津谷公園キャンプ場に向かう。
小雨とは言え、濡れた山道は走り辛い。特に舗装されておらず、草や砂利に覆われた山道は力が奪われ、バランスを崩しやすい。山崩れで道路が塞がれた箇所もあり、自転車を担いで土砂を乗り越えている。かなり難航したと思われるが、嬉々として楽しんでいる様子がビデオから伺える。深い緑の山々と清濁混じる川の流れに、色づき始めた木々や落ち葉のコントラストが美しい。
お昼過ぎにライド隊が戻るとランチが始まる。ケータリングはNOT CURRYさん。その名の通り、これはカレーではない。サフラン・ライスと揚げた野菜や肉が添えられるのはスープ・カレーに似ている。スパイス満載のクリア・スープは少し甘く刺激的。だが、これはスープ・カレーではないし、カレーでもない。垂井町や岐阜市の店舗に出かけたこともあるが、毎回混乱させられるのが楽しい。
ランチが終われば、いよいよテント・サウナ。聞けば、サウナ・テントからサウナ・ストーンに至るまでフィンランドから輸入したそうだ。薪を焚べ、白樺の枝で蒸気を操り、身体を叩くサウナ・マスターが心底楽しそう。数分間熱気と蒸気に浸った後は、冷気冴え渡る川に突入。思わず身震いし、大声で歓声が上がる。水分を十分に取りながら休憩。これを2〜3回繰り返し、合間合間に談笑にふける。
テント・サウナはニルヴァーナですよと冗談めかして言われていたが、3回目のサウナ中に、私は誰で何をしているのか分からなくなった。前後不覚ではないが、思考や意識の責務から解放されたのだろう。そもそもサウナは、日常生活で弛緩した身体感覚を、高熱と蒸気と冷水でチューニングする。これを人里離れた自然の中で雑事に煩わされずに楽しむのだから、効果百倍のナチュラル・ハイとなる。
サウナが一段落した後は、隣接するOne Tree Academyで焚き火を囲み、コーヒーをいただく。ここはIAMASの同僚James Gibsonらが作った森の中の板舞台で、木々にタープを渡して雨をしのぐ。ここでもトーク・イベントが予定されていたが、雨天のために中止となった。アウトドアを研究するデザイナーや、サイクリングを思考するアーティストなど数名でとりとめもない話が続く。
さて、このBIKE2SAUNAの主催は大阪の自転車屋Bicycle Studio Movementさんと移動式のテント・サウナを実施するTent Sauna Partyさん。それぞれこだわりたっぷりの活動をされているようで、興味津々。標榜するオルタナティブなバイク・カルチャーとは何だろう。今回のイベントもその一環だろうが、さらなる思惑もあるのかもしれない。近くまた話を聞けることを楽しみにしたい。