自転車シェアリング〜養鉄トレクル編

養鉄トレクル(以下、トレクル)は養老鉄道の北部沿線を中心とした自転車シェアリング・システムの名称だ。養老鉄道は、ほぼ全線に渡ってサイクル・トレインを展開する、日本有数ローカル線。サイクル・トレインとは、自転車をそのまま載せることができる電車のこと。ならば、トレクルとはトレイン・サイクルの略で、電車をそのまま載せられる自転車…ではない不思議ネーミング。

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このシステムは2つの点で興味深い。ひとつはパリロンドンに見られる都市型ではなく、田舎でのサービスであること。もうひとつは、通常の自転車ではなく、電動アシスト自転車が用いられることだ。サービス対象である揖斐川町と池田町の人口合計は4.5万人強。ロンドンの人口840万人強に比べると0.5%。極端なまでに異なる地域で「自転車シェアはじめませんか?」は成り立つのだろうか。

トレクルは2016年7月に自転車30台と駐輪場3ヵ所によって運営が開始された。パリやロンドンに較べて2桁も3桁も規模が違う。都市型シェアリングでは、大量の自転車や駐輪場によるメッシュ化と、短時間利用によるマイクロ化が運営の鍵を握る。だが、ここではメッシュ化もマイクロ化も不可能だ。そこで、利用は1日単位で、9:00から17:00までの営業時間内であれば何時間でも使えるようになっている。

営業時間という言葉が示すように、駐輪場には有人窓口が設置されている。この窓口に行き、身分証明書を見せて利用申込書を書き、料金を支払う。これで自転車の鍵となるICカードが手渡されるので、開錠した自転車に乗って出かける。そして、営業時間内に窓口にICカードを返せば返却完了。なんのことはない、これは従来のショップ型自転車レンタルと同じだ。ただ、返却場所が複数ある点が従来と異なる。

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さらに駐輪場は、単純にスペースが確保されているだけだ。自転車も車輪を動かないようにするリング錠が備わっているに過ぎない。自転車で出かけた先でも、リング錠での施錠が求められているだけだ。他のシステムのように自転車を構造物に連結する方式、いわゆる地球ロックではない。これでは自転車をトラックで運び去ることも簡単だ。ポートランドのようにGPSとモバイル通信で追跡できるのだろうか。

一方で、有人窓口ではなく、WEBサイトやスマートフォンからトレクルを利用することも可能。このためには会員登録が必要だが、これが極めて不条理。魔界のようなエラー・チェックが働き、10回ほど失敗する羽目に陥った。サーバから切断されて、最初からやり直すこともあった。青息吐息でなんとか会員登録ができたものの、利用予約は2日前までと理解不能仕様。手作業で予約管理をしているのだろうか。

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このように旧態依然としているのは、トレクルは新規開発ではなく、ドコモ・バイクシェアのシステムを流用しているからだろう。道理でITゼネコンらしいフレイバーが満載だ。前述したように、このITシステムは使いにくく、利用価値が感じられない。普通の鍵を使った運用のほうが好ましいとすら思える。しかも、トレクルは地方創生交付金による公共事業。つまり、税金なので、今後の展開と活用が問われる。

一方、シェアする自転車が電動アシストであることもトレクルの特徴だ。ただ、ベースとなる電動アシスト自転車が、通常の自転車より割高である点は無視しても良さそうだ。自転車単体の価格より、システムの構築費や運用費のほうが遥かに高額と推測するからだ。また、電動アシスト自転車自体の評価も別途考察したい。従って、ここではトレクルの利用面においての電動アシスト自転車を考える。

トレクルが提供する電動アシスト自転車のうち、シティ・タイプはママチャリ型で、座高が低く直立姿勢で漕ぐ。前籠付きで近距離の買い物などに適しているが、一日かけての用事は考えにくい。しかも、当該地域は山間部を除くと平地が続くので、電動アシストの必然性は薄い。ただし、100m先のコンビニへも自動車で行くような地域性なので、トレクルが自転車活用の意識変革に繋がれば素晴らしい。

もっとも、トレクルは「観光スポットを周遊できる交通手段」とうたっている。しかも、同地域の観光地は平地部より山間部が圧倒的に多い。となると、シティ・タイプは役不足で、もうひとつのスポーツ・タイプが活躍する。こちらはマウンテン・バイク型で、アシスト量も大きい。かくして、地域住民の日常活用ではなく、観光地に観光客を呼び込むことが課題になる。

そこで「岐阜のマチュピチュ 天空の茶畑へ行こう〜楽々電動レンタサイクルで巡る揖斐川町上々流」なるキャンペーンが行われている。この上々流(かみがれ)の茶畑へは、ママチャリでは難しい勾配の坂道が続く。ここでこそ電動アシストの真価が発揮され、適度な運動量で達成感も得られる。そして、上りきった先の絶景に感動すること間違いない。電動アシスト自転車での観光モデルとして理想的だ。

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もうひとつ、駐輪場のある池田町公民館から池田山山頂までライドしてみた。平地部を含めて距離は12kmだが、上り獲得標高670m、上り平均斜度8.1%のヒルクライムとなる。どちらのタイプでも、満充電で出発して山頂到着時には残量20%程度だった。下りはアシスト不要なので、戻りはなんとかなる。ただ、より有名だが、より遠方である華厳寺や徳山ダムへの往復は、トレクルでは難しいだろう。

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このように、常に問題になるのはバッテリーだ。まず、自転車を借り受けた時に充電量を確認しておこう。充電量が少なければ、窓口でバッテリー交換してくれる。ちなみに、これまで7回借りたうち、4回は満充電ではなかった。さらに、バッテリーが僅少にななれば、バッテリーか自転車自体を交換してもらえる。窓口まで戻るのは面倒かもしれないが、一日中利用できるのは嬉しい。

さて、話を最初に戻せば、養鉄トレクルは都市型の自転車シェアリングではない。実際にも「レンタサイクル」と銘打っており、従来型の自転車レンタルだ。ドコモ・バイクシェアは東京や横浜などでマイクロ・メッシュ化を目指す一方で、同じシステムを地方に持ち込んだ際の最適化を怠っている。窓口の方々は丁寧かつ親切であるだけに、ITゼネコンの手抜きが悲しく感じられる。

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