自転車に乗ると風になる。ジョディ・ローゼンが宇宙を旅する自転車を取り上げて述べたように、乗り手は重力から解き放たれ、自転車は滑空するかのように進むからだ。特に追い風であれば更に軽やかに進む。そして風と同じ速度になれば、身体に受けるはずの風が止む。無風とは風との一体化だ。そして風は地球を取り巻く大気の動きであり、自転車は風となって地球を駆け巡る。
この時、少し速度を早めれば顔に風を受け、遅らせば背中に風を受ける。僅かなペダル具合で風を操ることができる。少し強めの風なら風速5m/sほどで、これは時速にして18km/h、自転車なら簡単に出せる速さだ。もちろん、常に追い風とは限らないし、時々刻々と風向きと風向は変化する。そこでリアルタイム風情報を頼りにルートを決める。
向かい風は空気抵抗が大きくなるので忌み嫌われる。ただ、悪いことばかりではない。鳥やグライダーは向かい風に向かって舞い上がり、滑空する。そこで鳥とともに自転車を走らせてみる。手元にあったのは露店で買ったオモチャだ。本来は竿の先から糸を伸ばし、凧のように空中に鳥を飛ばす。そこで竿を自転車のハンドルに結束バンドで固定する。
制作時間3分のダーティ・プロトタイプながら、これはこれで充分に楽しいし、更なる可能性が感じられる。鳥は、人が身体で感じるよりも繊細に風を受け、機敏に風に舞うからだ。風を読み、鳥を気遣いながら、自転車を走らせる。鳥を通じて大気や地球へと知覚が伸びていく。かくして普段の自転車の乗り方とは異なる快楽原則が導かれるかもしれない。
また、課題も見えてくる。一番の問題は竿に糸や鳥が絡まることだ。一旦絡まると自転車を止めて糸を解くしかない。さらに、自転車や周囲のものに絡まりかねないので、糸を長く伸ばせないのも残念だ。それでもいつか鳥が自由に大空を飛びながら、自転車と並走するだろう。それまでは、鳥の動きに気を取られて、安全が疎かにならないように注意したい。