Cycling Edge 18: 充電ステーション

8月後半より2週間ほど南ドイツに滞在し、近隣のフランス、スイス、オーストリアも訪れた。いずれも国境を自由に行き来できる。雰囲気は似ており、市街地でも観光地でも自転車を数多く見かける。なかでもe-BikeやPedelecと呼ばれる電動アシスト自転車が多い。新型コロナ・ウイルスによるパンデミックを契機として一気に増えたらしい。

そのような状況に感心していたところ、観光地ライン滝で見かけた標識に驚いた。自転車のマークからケーブルが延びて電源プラグが描かれている。日本では似た標識を見たことがないので、理解が及ばず、混乱する。だが、駐輪場を表すPの文字とE-BIKEの文字を見て合点がいった。そう、これは電動アシスト自転車の充電ステーションだ。

実際に設備を見たのは観光地リンダウの3段の金属製ロッカーKLiMo Stationだ。近くの自転車ショップでデポジット(保証金)を預ければ鍵が渡され、無料で使えるそうだ。従ってショップの営業時間内しか利用できないことになる。さらに自分で充電アダプタを持参しなければならないと言う。最新の設備であろうに何ともアナクロだ。しかし極力単純にすることで、導入の敷居を下げているとも言える。

さらに、小さな町ミュンジングにあったコンテナ型のChargerCubeに驚かされる。左右に4台ずつ合計8台のe-Bike用充電ポートがあり、ShimanoやBoschに対応するケーブルがある。中央にはスマートフォン充電用のボックスが並ぶ。そして空気ポンプや各種工具も備わる充実ぶり。いずれも無料で利用でき、e-Bikeだけでなく、普通の自転車や歩行者にも役立つ多目的スペースになっている。

同じChargerCubeは隣街ロイトリンゲンにもあった。e-Bike用の充電設備は同様で、他の設備は多少異なる。駅前だからか落書きや放置自転車があって荒廃した印象を与えるものの、それだけに使用率は高そうだ。これらのChargerCubeは天井のソーラー・パネルで発電して運用する自律型充電ステーションだ。そしてドイツ連邦環境省の支援によって自治体が設置している。つまり、国策だ。

ロイトリンゲンの商工会議所(IHK)にはBike Energyなる充電ステーションがあった。こちらはクルマ用の充電ポートが並ぶ駐車場の奥にあり、どこよりも小綺麗な佇まい。4ポートの充電スタンドが3基あるので、12台のe-Bikeが無料で充電できる。ところが受付では誰も充電ケーブルの在処を知らない。無料だそうだが、実際には利用できない。その代わり何故か菓子パンが振る舞われる謎状況。

このような充電ステーションの所在地はBike Energyのマップで調べることができる。ChargerCubeなど他のサービスも掲載されている。iOS用およびAndroid用のアプリもある。これらを見るとドイツを中心に夥しい数の充電ステーションが整備されていることが分かる。今回訪れた人口11.8万人のロイトリンゲンなら7カ所、人口1.5万人のミュンジングでも3ヵ所もある。小さな村にも配置されているわけだ。

ドイツを始めヨーロッパの自転車環境の素晴らしさは方々で語られている。インフラストラクチャーとして安全な自転車道や充実した駐輪場は日本でも徐々に整備されている。だが、決定的に遅れているのは、このような誰もが利用できる公共の充電ステーションだ。自転車活用推進計画でも取り上げられておらず、製品クラウウドファンディングも鳴かず飛ばず。

電動アシスト自転車によって誰もが気軽に自転車に乗り、活動範囲を広げるようになった。そこでさらにメッシュ(網の目)的な充電ステーションの整備や充電の簡易化や性能向上を望みたい。それは単にロング・ライドを可能にするだけなく、軽量なバッテリー、すなわち軽量な自転車をもたらす。これこそ人々の能力と生活のエッジ(境界)を広げる自転車環境が目指す方向だと思う。

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