今秋にモビル文学(映像版)の作品発表が東京と熱海であり、ここ数ヶ月はその準備に勤しんでいる。
IAMASの修士研究として取り組んでいるモビル文学AR版(ARによる街への小説表示)との違いは、小型プロジェクターを搭載した自転車で街に映像化した小説を投影することで、こちらの映像ヴァージョンは現代美術作品として世の中へ発表をしていく。
展示が決まった6月中旬から8月下旬にかけて、東京と熱海、全く環境の違う土地で同時に準備を進めていき、2つの比較の中で複数の発見があった。
本記事ではそのTipsを3つのトピックに分けて整理をしていくことにする。
作品発表場所のリサーチ
モビル文学の土地を舞台にした小説を執筆し、街に映像投影するという作品の特性を生かすため、何度も発表場所に足を運んだ。
東京(東京駅周辺)は夜でもネオンが煌々と輝き、熱海は日が暮れても熱海銀座周辺の飲食店を中心に観光客で賑わう。プロジェクターを持って自転車に乗ったり歩いたりしながら方々で投影テストを繰り返していく。
併せてマップを見ながらおおよその作品投影のためのコース選定を行う。小説の内容と相関する場所を見つけたり、作品内で利用する写真を撮り溜めていく。一度行っただけでは発見出来ない街のちょっとした看板や、小道、人の流れを出来るだけ多く観察し、情報をストックしていく。
東京も熱海も人通りが少なくなる深夜に街への映像投影を行うことを決め、自転車に乗って何度も仮定したコースを周り、身体に馴染ませていく。
足を運ぶ度に小説の内容にアップデートがあり、自分が最初書いていた小説の内容から大きく飛躍したり、結末が変化していく体験を繰り返す。
モビル文学の文学は街に書かされた小説と言っても過言ではないかもしれない。
自転車の調達
街のリサーチと同じくらい大切なのが、自転車の調達である。普段使用している自転車は現在の拠点である岐阜県大垣市にあり、東京ないしは熱海へ持参することも考えたが、現地で調達出来る自転車を主に活用することにした。
東京にはレンタサイクルが至る所にあったため、複数の会社が貸出している自転車に実際に乗ってみる。その中から機材の積み込みに最も適した仕様の自転車を見つけ、作品制作時はそれを利用することにした。(一部映像はいつも利用している自転車で制作)
その過程でレンタサイクルは大体19時を過ぎると皇居を囲むように貸出可能自転車が少なくなり、翌朝になると再び利用者の勤務地付近に自転車が戻ってくることに気が付いた。想像していたより多くの人が通勤や通学にレンタサイクルを利用していることが分かった。機材を積むに当たって自転車の前カゴの大きさが重要であり、いくつかのポートを回って希望の自転車を探し出すところから東京での制作が始まった。
一方熱海は坂が多い地形であることから熱海駅周辺に自転車屋がなく、参加する芸術祭の運営団体が所有していたママチャリを改造して制作を行った。駅前にレンタルサイクルショップ、20キロ離れた隣町にレンタサイクルの貸し出しがあったが、機材の積み込みに適した仕様を満たしておらず、ママチャリを改造することからスタートした。
ママチャリの前籠を外し、映像投影の障壁を取り除く。後ろのカゴにiPadなどの機材を置くことが出来た。幸運にも電動型の自転車であり、夏のじめっとした夜風を浴びながら坂を駆け上る。ひいひいぜえぜえ言いながら31歳の誕生日をプロジェクターを付けた自転車を乗り回しながら熱海で迎えた。パブリックエネミーとして、悪い大人の手本でいたいのさ!
機材の選定
東京の制作では、いつも利用している小型プロジェクター(200ルーメン)が街の明るさに負けてしまったため、JMGOのレーザープロジェクターを前籠に乗せ、背負ったバッテリーから給電しながら制作を行った。
熱海はほどほどに街が暗く、大垣での制作でも使用していたプロジェクターで事足りた上に地面や海水に光が薄ぼんやりと浮かぶ粋な味わいを映像の中に閉じ込めることが出来たが、まだ発表まで時間があるのでレーザープロジェクターでの映像投影も試してみたい。
東京・熱海。次はどこの街へ行くのだろうか。僕は「モビル文学」で世界中の街を旅する予定なので、あなたの街でもそのうち会いましょう。
作品発表のお知らせ
本記事で触れた作品展示は下記の日程で行われる。
・第2回BUG Art Award ファイナリスト展 9月25日〜10月20日, BUG(東京駅八重洲口から徒歩3分)
・ATAMI ART GRANT2024 11月2日〜12月1日 , 熱海市内
自転車ファンのみんなは絶対に来てくれ!作品の感想待ってます!