Cycling Edge 05: 地方の自転車専用道路

筆者の自宅から20〜30kmほど離れた大野町には、しばしば自転車で出掛けている。広々とした田園地帯を抜ける農道が整備されており、交通量も少ない。取り囲む揖斐川と根尾川の堤防道路や中央部を流れる三水川沿いの小径も走り易い。春ともなれば古墳群の妖艶な枝垂れ桜が季節を告げ、バラ公園では色とりどりの豪奢な薔薇が咲き誇る。新緑、紅葉、冬枯れ、季節ごとに美しい風景が広がる。

そんな大野町で先日、普段は通らない町の中心部に迷い込んで驚いた。昔ながらの家屋が多く、見通しが悪い隘路に辟易していたところ、綺麗に整備された歩行者と自転車のための専用道路に出くわしたからだ。真新しいようで高品質アスファルトの路面は滑らかで、歩行者用のタイル敷きも美しい。古い町並みには有り得ないほど直線的に道が続き、やがて緩やかな曲線を描いて小さな公園に至る。

ところが、十数メートルおきに自動車道と交差し、ご丁寧に設けられた厳重な柵に行手を阻まれる。柵を抜けるのに速度を落として一時停止するのは、安全のためとは言え悲しくなる。これでは田舎町に現れた素晴らしいサイクル・スーパーハイウェイの価値が半減する。そもそも専用道路の存在自体が不思議だし、それを幾重にも寸断する柵の矛盾は何とも解せない。

そこで近くの大野町役場を訪れて事情をお聞きした。丁寧に説明をいただき、この道路は2001年に廃止された名古屋鉄道谷汲線の線路跡であり、公園は黒野駅の跡地を整備したことが分かる。道理で滑らかな道が続いているわけで、全国にいくつかある廃線跡の自転車道路転用のひとつであった。実際にも近隣住民の通学や散歩に利用されており、評判は良いらしい。

これまでの数年間で整備したのが現在の約1kmの区間で、今後10年ほどかけて10km以上に延伸するそうだ。なんとも気が長い話とは言え、カメがウサギに勝つのは間違いない。一方、道路を寸断している厳重な柵は警察からの要請だそうだ。しかしこれは間違い。見通しが悪く、ゆっくり渡たる歩行者もいるし、かつてはクルマが一時停止していたのだから。警察や国土交通省は悔い改めるべき。

ところで、大野町は全国有数の富裕地域だから、豊富な財源を基に全国に先駆けて社会実験を推進している、と邪推していた。そう、脱クルマ依存社会の先鞭としての歩行者・自転車専用道路だ。飽和した中央(センター)ではなく、余裕がある地方(エッジ)から未来のデザインを始めるのは、理に叶った話だろう。大野町はもちろん、日本各地で自転車専用道路が増えて欲しい。

大野町グランドデザイン改訂版の概要版より
クルマは僅かにしか登場しない

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