Visions in Motion 13:積層

岐阜県揖斐郡の池田山麓には、110基以上の群集墳がある。これらは願成寺西墳之越古墳群として知られている。6世紀末から7世紀初頭以後に作られ、横穴式石室をもつ直径5~20mの円墳である。2021年に発掘調査報告書のデータを元に各円墳の高さと直径を可視化し、XEROXのオンデマンド・プリンターで印刷・製本した。

印刷仕様では、シルバー(下刷り)+CMYK+ゴールド(上刷り)の6色印刷を試みた。ページを傾けて反射を見たりルーペで確認すると、金や銀の粒子が見え紙面に独特な光沢と質感を与えている。これは一般的なオフセット印刷では得られない、トナー特有の物質感が影響していることを確認できる。

円墳を上から重ねて見ると、石室の向きが中心から東南方向に偏っていることがわかる。考古学的な視点から、夏至の日の出に神聖な儀式を行うためではないかという太陽信仰に依拠した考察もある。古代人が自然と密接に関わりながら生活を営んでいた背景を反映しており、それが配置にも影響を与えていたと考えられる。

願成寺古墳群では、2013年より隔年で野外美術展が開催されている。古墳という文化財と屋外という自然環境の中でアートを試みる企画である。2022年の第5回目には赤松正行氏の作品『古墳時代の自転車』も展示された。正確には展示設営直後に跡形もなく消えてしまった。タイムスリップしてしまったのかのように、作品の行方は未だわからないままだ。

およそ1500年前より山麓に佇ずむ願成寺古墳群は、長い年月での風化が伴いながらも豊かな植物が生い茂っている。古墳の構造である盛土や石積みの上に、時代ごとの様々な堆積物が折り重なり地層を形成している。歴史を刻んだ証としての積層として今、現存している。そして我々が過去の歴史とつながりを持つための重要な糸口になっている。

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