自転車建築(11)スマホ版体験キットを作るⅡ

本連載は建築と自転車を組み合わせた表現を通じて建築の静的なイメージを覆し、建築と移動が持つ新たな可能性を探求している。引き続き、自転車、光、造形的な模型・物体の相互作用に焦点を当て、どのような表現が可能かを探る。

前回は多くの人に自転車建築を体験してもらうことに自転車建築の展開可能性があると考え、スマホ版体験キットの制作を行うことを決めた。したがって、今回の記事は体験キットの制作進捗状況に関するものである。試作第1号および第2号に至るまでの内容を説明する。

試作第1号

複数の空間形状で撮影できる仕様にしたいと考え、自転車のハンドルに固定する部品と箱は分離可能な仕様に設計し、形状の異なる箱にも対応できるようにした。スマホはゴムで固定し、容易に着脱可能に。ハンドルの固定部およびスマホと箱を支える部品は厚さ3mmのMDFをレーザーカッターで切り出し、ボンドで組み立てている。

制作の詳細
試作第1号は、以前に示した理想図に基づいて制作した。組み立てを容易にするため、金具はハンドル固定部にのみ使用し、強度のあるMDFと壊れても気にならない段ボールの組み合わせを採用した。段ボールの箱は体験者が自ら様々な箱を制作することを想定し、その度に異なる空間をスマホ越しに体験できた方が楽しいと考えこのような仕様に至った。

考察・課題
強度不足であったことが明らかになった。MDFを使用したことで全体的に重くなり、さらに、ハンドル固定部と箱の分離可能な仕様が問題となり、段差のある道を走行する際に箱が飛ぶ事態が発生。自転車に固定してから数日でMDF製の固定具が崩壊した。

自転車に固定して数日後には崩壊した

MDFは頑丈な板であるが、その密度のため硬く、外れた部品は尖っており危険だった。よりおもちゃらしい、軽量で壊れにくく、かつ人を傷つけない柔らかい設計が必要である。

また、体験者が自ら様々な箱を作成する可能性に関して、実際に使用してみて疑問が生じた。したがって、あらかじめ決められた形状を提示する仕様で十分であると判断した。これはキットであるため、より単純であるべきだと気づいたのである。

おまけ

今回の箱が今までと比較して特別な仕様なわけではないが、ふと、屋内で撮影してみたところ上記の映像がスマホに映り込んでいた。屋内で比較的強い光である照明のみが抜き出され、空間の情報はすっぽり抜け落ちたまま、照明だけが空間に浮かんでいる。まるで宇宙のようだ。動画の前半はダウンライト、後半は蛍光灯である。箱が情報をフィルタリングする役割を果たしており、非常に興味深い。

試作第2号

前回の試作から得た知見に基づき、改善を施すとともに、自転車に取り付けた際の外観の可愛さが不足しているため、「自転車建築」という名称に相応しい形状に仕上げた。全てを厚さ2mmの段ボールで制作し、走行中に箱が飛ばないようにハンドル固定部と箱を一体化させた。また、ハンドルへの固定方法も前回よりも取り付けやすい形状に改良した。スマホは前回と同様にゴムで取り付ける。

ハンドル中央に取り付けると可愛さUP

制作の詳細

ハンドル固定部と箱を一体型にするとともに、全てのパーツをレーザーカッターで切り出し、組み立てられる仕様にした。走行中の振動で緩まないように部品の接合部を緻密に設計している。また、ビジュアル面でのポップさを加えてみた。

考察・課題
テープで固定していた箱よりも、レーザーカッターで各部材が噛み合う形状に切り出した接合部で精度が出せるのか不安だったが、それが的中した。多くの隙間が生じ、箱内が明るすぎるため、映像の映り込みにくさが問題となった。強度や重量に関する問題は大幅に改善されたが、これによって新たな課題が浮上した。

おまけ

スマホ固定部の穴の隙間から、撮影者の頭部が箱に映り込んでいた。今までは周囲の風景を写し込むことに執着していたが、こうした表現もアリだなと興味深い。カメラオブスキュラを用いたセルフィーである。

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