最近取り組んでいるダーク・ツーリングの実践として提案があり、谷山集落跡に出かけた。と言っても有名な観光地や重量な史跡ではない。数十年前に廃村になった山間の小さな集落跡だ。随分と年月が流れ、道は絶え家屋は朽ちているのだろうか。だが、Googleマップに掲載されているし、最近の写真やビデオも見つかる。ライトウェイトな廃墟らしい。そこで7月の半ばに数名で出かけた。
詳細はこの後に続く谷山集落跡ツーリング記録に譲るとして、筆者としては廃村でありながら人の営みが消えない曖昧さが印象に残った。近くの人家から4kmほどしか離れていないためか、道路や電気は維持管理されている。しかし、それはいつまで続くのだろうか。これは都市部で問題になっている空き家と同じだろう。ただ、人里離れた地域なので目立たないに過ぎない。死の隠蔽。
谷山集落跡ツーリング記録
谷山集落跡は岐阜県揖斐郡の山中に位置する廃村である。かつて豊かな木材を提供することによって栄えていた集落は定住する人がいなくなって久しい。人里離れたその場所は最寄りの駅やコンビニエンスストアから遠く、他の集落からも幾分離れた場所に存在している。
人の営みが埃かぶっている谷山集落跡は、雨風吹き荒ぶ自然の中でどのように変化を続けているのだろうか。時間が止まった遺された家々や物は現在とどのようなコントラストを表すのか。
人間の身体運動を拡張する自転車を以て捨てられた土地の生活との距離を測り、GoogleMap上にピンが立ちデジタルの世界にのみ場所の記名性があるその土地の今を記録すべく、谷山集落跡へ向かった。
準備と出発
谷山集落跡から最寄りの揖斐駅から10キロメートル離れた場所にある。土地の高度をフラットにする地図上では把握し難いが谷山集落跡は山中にあり、辿り着くまでには岐阜のマチュピチュを越えて過酷な坂を登る必要があることが事前のリサーチで分かった。
養老鉄道はサイクルトレインという、土曜日と休日 (日曜日・祝日・振休) すべての列車・平日 9時頃~15時頃までの指定列車は電車内に自転車の持ち込みを許可するサービスを提供しているため、自転車を持って最寄り駅まで移動することが出来る。
また養老鉄道揖斐駅では養鉄トレクルという電動自転車を有料でレンタル出来るため、現地で自転車を調達することも出来る。
谷山集落跡へ
市街地を抜けるとすぐに田園が広がった。白鷺が稲の中に留まり、梅雨の間の束の間の快晴を楽しんでいるように見えた。道が傾き始めてすぐの場所に湧水を飲める場所があり、迫る坂道へ向けて体力を整えた。傾斜の度合いが上がるにつれて電動アシストの力が効いてくる。自分の足で自転車を漕いでいるのか、電気が自転車を漕いでいるのか、激しい斜面を前にして定かではなくなってくる。バスの停留所が道端から姿を消して、しばらく進んだ先にあった茶屋で一服をした。店内のテラスからは茶畑を見下ろすことが出来る。
谷山集落跡の探索
茶屋から更に山道を登りいよいよ谷山集落跡へ進む。道はしっかりと舗装と整備がされていて自動車でも通れるくらいのスペースがあった。道の外れにあった墓地の墓石には令和になってから亡くなった方の記名があってコミュニティーとしては捨てられているものの、定期的な人の出入りがあることが伺える。
ようやく辿り着いた谷山集落跡には家々が建て壊されることなくそのまま残され、長い時間と自然からの猛威によって崩れかけている箇所がちらほらあった。電気や水道のメーターが止まり、携帯電話の電波も入りずらかった。集落の中央には清流が流れ、手で掬うとひんやりとして冷たかった。廃屋の周りに古いパッケージのビール缶が転がっていた。
以下は3Dスキャン・アプリで撮影した谷山集落跡の3Dモデルである。
帰路は土砂降りだった。大量の雨粒を浴びながら山の斜面を下った。少しずつ人や車の姿が増え、自転車のペダルを漕ぐ度に生活へ戻っていった。
まとめ
揖斐駅から谷山集落跡までの道のりは自転車の電動アシストが無ければ非常に険しいものだった。谷山集落跡の歴史が現代のように自動車や自転車が存在しない平安時代末期から始まったことを考えると、数百年の間本当に深い森の中で林業をしていたことが分かる。
人が修繕をやめた土地や建物は自然のなすがままになっていく。記録した一瞬は泡沫のように儚いものなのかもしれない。
かつてシステムやインフラによって維持されていた谷山集落は、そこから人がいなくなり、人間の生活から切り離されることで、どんどん散らかっていく。自然の中で消化されないビール缶はいつまでも地面に横たわり、捨てられた瓶は蔦に飲み込まれていく。
私たちの日常生活もまた然りで、散らかった部屋を能動的な意志やエネルギーよって掃除などのプロセスを通して清潔に保ち、必死で現状を維持することに食らい付いている。我々の生活の営みは破壊と再生を繰り返し、辛うじて維持されているものだ。
3Dスキャンをした谷山集落跡と道中で我々が目撃した墓石は、どちらが風化に耐えうるのだろう。1000年後の世界において、3Dデータが電子の海の海蘊となっていたとしても、生活の跡が刻まれた石は雨風を耐えてそこに横たわっているような気がする。
参考
【付記】谷山集落跡ツーリングはIAMASの学内プロジェクト実習である運動体設計によって実施し、以下のメンバーによって記録を作成した。
志村翔太(IAMAS博士前期課程1年)
松本太一(IAMAS博士前期課程1年)
對中優 (IAMAS博士前期課程1年)
赤松正行(IAMAS教員)