Dark Touring 02: フクイチ2023 後編

福島第一原子力発電所を巡るツール・ド・フクイチ(筆者による造語)の2日目。まずは郡山海岸に向かい、立ち入り禁止の境界からドローンを飛ばす。明るい日差しと穏やかな風のもと、白昼夢のような景色が広がる。水素爆発で上部が吹き飛んだままの1号機やカマボコ型の屋根を取り付けた3号機などが見て取れる。ニュース映像で何度も見た地点にこれ以上近づけないもどかしさに焦燥する。

Googleマップで調べると、今回ドローンを飛ばした地点から原子炉1号機まで直線距離にして3.50kmだった。そして国道6号線では2.27kmまで近づいていたので、これがツール・ド・フクイチの目的である福島第一原子力発電所への最接近地点となる。前回はドローンを飛ばした請戸漁港の南端から6.30km、自転車で引き返した双葉町の北部からは4.22kmであった。それぞれかなり近づいたことになる。

だがこれ以上は今後も近づけないかもしれない。国道6号線の東側は原子力発電所を取り囲む中間貯蔵施設だからだ。ここには除染した土壌や廃棄物、すなわち放射性物質を含む土壌や廃棄物が集められている。もちろん立入禁止区域だ。これらを福島県外で最終処分するのは法律で2045年3月までと定められている。なんと20年以上先であり、最終処分の受け入れ地が決まった話も聞かない。

次いで双葉町を自転車で周回する。帰還困難区域であったが放射線量が下がって避難指示が解除された区域だ。特定復興再生拠点区域としてインフラ整備が行われたものの、必ずしも住民が戻ってはいないようだ。時折自動車が通るだけで、人に出会うことは少ない。放置され荒廃した建物が目立つ。コンビニエンス・ストアなどは数km先の浪江町にしかないそうだ。

さらに大熊町ではより荒廃した印象を受ける。蔦に呑み込まれた家屋、破れたドアや窓、庭や道路を覆う草木、放棄された車両などが目立つ。広大な田畑が深い緑の海になっていたりもする。人や犬は見かけず、ただ鳥だけが囀っている。それでもゴーストタウンとは感じない。避難指示が解除されてエントロピーが減少しつつあるからだろう。その向こうの人が絶えて久しい地域には踏み込めない。

立ち入り禁止を示すバリケードや警戒する立哨を目にする度に不条理を感じる。その境界は人為的に決められたに過ぎず、しかも明解ではないからだ。行政の発表は地名地番の羅列であり、ジオ・コーディングが困難。地図情報もPDFの大雑把な図形に過ぎない。一方、有志の方が公開されている帰還困難区域地図が役に立った。これこそ役所が行うべきデジタル・トランスフォーメーションだろう。

そのような問題に対して、ロケーション・ベースのAR(拡張現実感)アプリ「この地に咲く花の境界線」を作っていた。iPhoneをかざすと半透明の境界壁が現れるので、地図を見なくても一目瞭然というわけだ。ただし、行政でもARでも、花などの自然にとって境界線は意味がない。さらに境界線がない世界こそが望まれるし、このアプリが不要になることが望まれる。それをアプリによって示そうとした。

ちなみに、避難指示が解除された安全な側の壁は青色に、立ち入り禁止の危険な側は赤色に塗られる。また国道6号線はピンク色の高架路として、福島第一原子力発電所は黄色いマークとして示される。いずれも遠方から視認できるように高く設置しており、数km先からでも存在を確認できる。いずれ行政からマシン・リーダブルな座標値が提供されれば、App Storeで公開したい。

このようにして福島の避難指示解除区域を自転車で駆け巡った。コースや体力次第で1日でも可能だろう。必要であれば2020年に全線開通したJR常磐線で輪行もできる。目的にあった駅からスタートし、疲れたら途中の駅で離脱すれば良い。実際にも台風の影響で初日に参加できなかった知人は、双葉駅まで輪行して合流した。彼によれば車内はガラガラだったそうだから、サイクル・トレインも実施可能だろう。

JR常磐線の列車

風光明媚な観光資源はないけれど、災害と復興を肌で感じることは意義深いと思う。多くの人が訪れることが未来に繋がるはずだ。それも自転車であればこそ帰還困難区域の暗澹さを実感し、避難指示解除区域の息吹に触れることができた。草木の匂いや土埃のかすみにヒントが宿っているに違いない。筆者もこれを契機として各地のダーク・ツーリングに赴きたいと考えている。

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