Dark Touring 01: フクイチ2023 前編

6月初めにツール・ド・フクイチ(筆者による造語)を行った。これは2018年に行った福島第一原子力発電所へのライドの第2弾になる。以前はもちろん今でも周辺は放射線量が高く、立ち入ることができない。しかし、当時は制限されていた国道6号線の通行が、昨年8月末より徒歩や自転車でも可能になった。つまり分断されていた南北のルートが復活したわけで、これは実走する意義があると感じた。

避難指示区域の概念図(2023年5月1日現在)
(福島県の「避難区域の変遷について-解説」より)

もうひとつ気持ちを後押ししたのは、国道6号線の状況を調べていてホープ・ツーリズムに気がついたからだ。これは福島県での災害と復興を観光として打ち出す事業だ。その狙いは評価するものの、ホープ(希望)という言葉に欺瞞を感じてしまう。そこでアウシュビッツやチェルノブイリがそうであるように、負の遺産を自転車で巡る旅をダーク・ツーリングと名付け、実践しようと考えた。

そこでまずは走行ルートを選定する。前回は相馬町から南下して双葉町で引き返えした。そこで今回は南から北上して双葉町を目指す。出発地は自転車をレンタルするいわき市の颯サイクルで、県道395号線から県道391号線へと進む。これには海岸近くの風景が良い区間や今年2月に開通した広野小高線などが含まれている。そして現在も残る帰還困難区域は国道6号線で通り抜けることになる。

ちなみにGarmin Connectで帰還困難区域の両端である富岡町から双葉町へのルートを自動作成すると、とんでもないルートが現れる。Follow Popular Routesモードを使うと、走行実績が少ない国道6号線は選ばれないのだろう。先の避難指示区域を取り囲むルートであり、大量の放射性物質が浮かび上がって見えるようだ。それは2011年、つまり12年前にメルトダウンした原子炉の未だ癒えぬ深い爪痕だ。

それでは走りだそう。当日の朝は小雨ながら、徐々に晴れて汗ばむほどの好天気となる。県道395号線および391号線は路面が良く、自転車レーンが整備された区間も多い。交通量も少なく、適度なアップ・ダウンとカーブで理想的なサイクリング・コースだ。サッカーで賑わうJビレッジ、サーフィンに興じる岩沢海水浴場、福島第二原子力発電所を臨む波倉海岸など立ち寄るポイントも多い。

1日目、いわき市から双葉町へのライド(Timelapse)

帰還困難区域が始まる富岡町ではアーカイブ・ミュージアムが原子力事故の悲惨さを伝える一方で、自由な観覧を許さない廃炉資料館は東京電力の無力感を示し、屋外遊具のない富岡わんぱくパークは今だに放射線量が高いことを物語る。このあたりから国道6号線に入り、大熊町へと進む。立ち入り禁止を示すバリケードや看板、無言でたたずむ警官や警備員、警鐘を鳴らして巡回する消防車など物々しい。

国道6号線は片側一車線で路側帯は広くない。自転車レーンは少なく、あっても草木が茂って走行しにくいことが多い。休日であったので交通量は少なめと思われるが、それまでの県道に比べると随分と多い。総じてトラックなど商業車が多く走る産業道路といった印象だ。従って今後は専用レーンなど自転車走行環境の整備が必要だろう。単に元に戻すのが復興ではないのだから。

国道6号線(大熊町)

さらに真新しい施設でも駐輪場やサイクル・ラックがなかったり、適切な案内がなかったりする。ましてやサイクル・ステーションなどは望みようもない。日本各地でのサイクル・ツーリズム振興に比べると雲泥の差だ。国道6号線がそうであったように、放射性物質を遮ることができない自転車は敬遠されたのであろうか。もっとも何人かのサイクリストに出会ったので、今後の充実に期待したい。

国道6号線、三角屋交差点(大熊町)
正面は立ち入り禁止の県道251号線

ともあれ帰還困難区域の国道6号線は山間部も多く単調に感じる。モニタリング・ポストに表示される空間線量率は最大で毎時1.17マイクロ・シーベルト(μSV/h)であった。居住困難の目安が3.8μSv/hなので、許容範囲かもしれない。しかし強い放射線を長く浴びる気にはなれない。だからペダルを漕ぎ続け、避難指示が解除された双葉町に入ると安堵した。閑散としていても人の営みを感じるのは嬉しい。

このようにしてダーク・ツーリングの初日の走行距離は70km近くとなり、双葉町のホテルに投宿する頃には雲ひとつない快晴となっていた。レンタルしていた自転車はBESVのJF1で、快適な電動アシストながら50kmあたりでバッテリー切れとなったのが残念。必須の充電アダプタは重く嵩張る。同行した知人が借りたBESV PSA1は街乗り仕様らしく、長時間乗るのは辛かったそうだ。

ビジネスホテルARM双葉とレンタルした自転車

【追記】同行した知人による記事「何年かぶりに福島原発を見に行く」が公開された。併せてお読みいただければ幸いです。(2023.06.09)

【追記】翌日のライドの記録「Dark Touring 02: フクイチ2023 後編」を公開しました。(2023.06.15)

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