自転車建築(2)自転車に暗い部屋を載せる

前回実験した、天井開口と壁面開口の2種類の開口の違いから生まれた光と影の構成のうち、壁面開口バージョンからはカメラ・オブスキュラのような表現が得られた。風景を眺めるための建築的な開口部ではなく、風景を光の像として取り入れるための開口部という側面に筆者は魅力を感じた。

そこで、今回はカメラ・オブスキュラに焦点を当てた表現を考えることにした。また、自転車を漕いで映像を記録するだけでなく、HMDで映像を鑑賞するまでの一連の体験が作品と考えられるため、鑑賞体験の質を向上させるために前回の記事で指摘した空間性の弱さを改善する必要がある。これらの点を念頭に置きつつ、周囲の環境を取り込んだ表現を発展させるための試作を行った。

自転車に載せる模型をW50cm×D50cm×H50cmにサイズアップした。
中央には8kで撮影可能な360°カメラを設置。
壁3面に開口を設けたバージョン。
左右の壁面に開口を設けたバージョン。
模型内に人を配置した案も制作。
壁3面に開口を設け、人を配置した。
壁3面に開口を設けたバージョンよりもスペクタクル性が増しており、魅力的な鑑賞体験を作り出している。

リファレンス

佐藤時啓 《リヤカーメラ

制作の詳細

以下が前回からの変更点である。

  • 1辺30cmの模型のサイズを1辺50cmに拡大。
  • 模型内により鮮明な像が映るよう、開口部のサイズを5cm角から3cm角に縮小。
  • 前回の撮影ではHMDで鑑賞した際に鮮明さに欠ける問題があったため、8kで撮影可能な360°カメラに変更。

これらの変更により、前回よりも光の像を鮮明に映し出すことができ、幻想的な空間を実現することに成功した。しかし、光の像を鮮明に映すために模型内を暗くした結果、HMDで鑑賞する際には粗さが目立ってしまった。また、模型のサイズを大きくしたところで、HMD上で空間の広がりは感じず、視覚的な明瞭さが空間を強く印象づけることが分かった。結論として、霧のような光の像が空間を彩る様子は魅力的と言えるかもしれないが、HMD上では予想していたほどの体験を味わうことができなかった。

そこで、さらに以下の変更を加えて再度実験をした。

  • 空間に物体を配置することで解像度が低くても空間を感じとることができるのではないかという仮説を立て、人の模型を配置。
  • カメラ上で明るさを調整。

考察

今回の作品では、具体的な光の像が模型内に映し出されることから、自転車を漕いでいる最中にはまるでカメラで撮影しているような感覚があった。

最後に試した左右に開口を設けて人を配置した案は、強烈な空間のスペクタクル性を生み出し、魅力的な鑑賞体験を作ることができた。開口の数が少ない方が像が重ならずに綺麗に映し出されることが分かり、開口が一つだけの場合も今後試してみたいと考えてる。

人を配置したことに関しては、空間を感じさせる要素にはなり得なかったが、空間の距離を知る手掛かりにはなった。また、人の影は空間を彩る要素として機能し、光の像と組み合わさることで視覚的複雑さを生み出している。

今回の実験の過程で明らかになった重要な点は、暗い空間での動画撮影は、8kで撮影可能なカメラを使用していても、HMD上では鮮明さが失われてしまうということである。本作品はHMDでの鑑賞を前提としているため、作品の発展において模型内の明暗を考慮する必要がある。

動的な光の像が覆い尽くす空間に身を置く体験はこの作品特有のものであり、一般的な建築空間では得られない。そのため、このカメラ・オブスキュラ的な表現を引き続き発展させていく方向で進める。

次回の展開

これまではシンプルな立方体にどのような開口を設けるかを検討してきたが、次回は物体の配置や模型自体の造形的な加工により、空間を物質的に複雑化させることで、それらと光の像との関係性について考えたいと思っている。自転車、光、そして模型の造形的な相互作用に着目し、どのような表現が可能かを模索していく。

3 comments

  1. 外野からのリクエストですが、球や円筒も見てみたい。壺やバケツとか? 建築ならドームや塔ですね。

    1. リクエストありがとうございます。興味あるので早々にためしてみたいと思います。

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