銀塩(輪)車 第17回 試作6号(計画)

自転車を通じて体験し得る事柄には、距離的移動、時間経過、身体的疲労、振動、風、空気抵抗、周囲とのコミュニケーションなどといった多くのものがある。これらを含んだ、自転車に乗るという行為の新しい記録の仕方を、銀塩写真を用いて模索する。

「銀(塩)輪車」第1回より

本連載は、このような目標を目指し自転車に乗る行為とその身体性の新たな記録方法を、銀塩写真の手法を用いながら模索している。これまで計5回に渡って試作品の制作を行い写真の撮影を行なってきたが、未だ筆者の満足いくような結果は出せて出せておらず、今回からは新たな試作6号に向けて更なる改善を行なっていきたい。

像の不在

さて、これまでの試作品の全てを通じて課題となっているのは、出来上がった写真における像の不在である。これはピンホールカメラと銀塩写真的手法を用いた長時間露光写真を、常に揺れ動く自転車や身体に設置する場合には当然生じる問題である。これまではこのブレ等による、主体的な像の不在に対してそれを許容、あるいは見て見ぬフリをしてきたが、今回はその点について考えたい。

試作5号にて撮影した写真

そもそもこの連載での理想としては、自転車に乗るという体験を記録するというものがあり、その体験というのは瞬間的なものではなく「ライド」とも言える自転車に乗るまで、乗っている間、乗り終わるまでの全てを含めた期間とも言える。このようなスパンの時間を均等に写真に残すとなると、写真の主体となるようなひとつの像を捉えるのは不自然であり、ピンホール写真的な表現の方が適していると考えている。

しかし、実際問題としてこれまでの試作品の写真ではあまりにも薄い、あるいは重なり過ぎて不明確になった像しか捉えることができておらず、この結果は予想できていたものの写真としての面白み、あるいは驚き等に欠けた。コンセプトと手法のみに重みが偏り、結果として出来上がっている写真の作品としての確度のようなものが像とともに不在である感覚が残っている。

試作1号にて撮影した写真

連載「自転車建築」より

現在このCritical Cycling上で筆者が非常に興味深いと感じている連載が「自転車建築」である。その中でも第2回の「自転車に暗い部屋を載せる」では、まさにカメラ・オブスキュラあるいはピンホールカメラ的な小さい部屋を自転車に載せている。しかし筆者がこの記事について注目しているのは、その小さな部屋の内部に360°カメラが設置されており、走行中にどのような光の像が部屋の中を照らしているのかが動画として見れるという点である。

そもそも銀塩写真的な手法に縛られていた筆者にはこのようにピンホールカメラの内部を録画しようという発想がなかったのだが、この記事の動画は本連載で抱えている像に関する課題にとても参考になる。これは、もともと問題視していた像の薄さと像の変化速度がやはり現状の撮影方法では課題になっていることがちゃんと確認できるからである。この動画を見る限り、やはり像(光)の明度そして像をどう重ねていくかという点をより工夫する必要があると再確認した。

改善

さて、まず1つ目の改善すべき点である像の明度の強化という点についてはレンズを使用するという案がすぐに考えられる。これは従来のピンホールカメラからは少し逸脱してしまう形になるが、ガラスでできた大きなレンズなどよりはより原始的かつ簡易的な方法でのレンズの導入を考えている。しかし、これに関してはゼロから自作というのはかなり難しいと思うので何か良いアイテムあるいは方法を見出したい。

2つ目の点に関しては未だ模索中である。ひとつ考えられるのはレンズあるいはピンホールがカメラ内に入れる光の量をライド中に調整できるようにすることである。恣意的あるいはランダムであれ、強調して印画紙あるいはフィルムに焼き付けたい部分とそうでない部分を分けることで、静的ではない記録そして写真が出来上がるかもしれない。しかし、この点についてはやはりまだ満足できる案が出ていないので、模索を続けたい。

さて、今回は文章メインの記事となってしまったが、今後の写真の更なる改善のための整理ができたと思う。場合によってはより複雑なカメラ・装置を製作することになるかもしれないが、少しずつ連載を通して進化を遂げていきたいと思う。また、来月はヨーロッパからの自転車観察を報告できるかもしれない。

それでは、また。

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