自転車建築(4)自転車に万華鏡を載せる

本連載は建築と自転車を組み合わせた表現を通じて建築の静的なイメージを覆し、建築と移動が持つ新たな可能性を探求している。引き続き、自転車、光、造形的な模型・物体の相互作用に焦点を当て、どのような表現が可能かを探る。前回の次回予告通りに既製品での検討と、追加でワンルームの模型を使用し検討を行った。

検討項目

  • ワンルームの模型
  • アルミホイル
  • ザル

ワンルーム模型を用いた検討目的は、私たちが普段暮らしているような見慣れたアパートの窓から動く風景を見ることでどのような鑑賞体験が起きるか確かめるためだ。ちょうど修士2年の宮崎が模型を制作していたので利用させてもらった。

ワンルームの模型
アパートの部屋から眺める動く風景

アルミホイルはカメラオブスキュラの延長としての検討案である。光の像が反射素材の面に投影された場合、どのような視覚効果が生じるかを確認することが狙いである。

内側にアルミホイルを貼り付けている
万華鏡のような空間

ザルはこれまでの検討模型にはなかった繊細な造形を持つ物体であり、これが光や影をどのように変容させるのかを明らかにし、既製品を用いた表現のヒントを探る。

ザルを用いたドーム状の空間
ザルの繊細な構造が影となって空間におちる

制作の詳細

ワンルーム案は宮崎が作成した一人暮らしのアパートの間取りが再現された模型を用いている。目的があって作成したわけではなかったらしく、今回の検討に活用させてもらった。

アルミホイル案は一辺30cmの立方体内側にアルミホイルを貼り付けたもので、左右両壁には開口を設けている。

ザル案は家にあった直径20cm程度のザルと段ボールを用いてドーム状の空間を作成した。

考察

ワンルーム案では、模型内と外環境の光量差による白飛びが問題となった。カメラ上のEV値を最低に設定して撮影したが、それでもなおかなり白飛びしている。外部の景色を明確に捉えるために撮影方法・模型の形状を改善する必要がある。一方で、現実を模倣した空間から眺める風景には可能性を感じた。より現実に近い見栄えの模型にすることで現実感を強め、鑑賞体験を向上できないだろうか。

白飛びする風景

アルミホイル案は想定よりも美しい空間が得られた。綺麗な鏡面ではなく段ボールの表面の凹凸をなぞるように貼り付けたアルミホイルはそれ自体の質感を主張しながら、ぼんやりとした光の像を一層抽象化している。光の色彩が際立ち、万華鏡のような空間が誕生していた。これは前回記事で制作した塔にも応用したいと考えている。また、アルミホイルではなく鏡を用いたバージョンも制作してみると良さそうだ。

ザル案自体は特別な魅力を持つものとは言えないが「10番目の感傷(点・線・面)」のような表現が可能なのではないかということに気づかせてくれた。

クワクボ先生の「10番目の感傷(点・線・面)」は光源を備えた列車が走ることで周囲に並べた既製品の影が空間を包み込む作品である。この作品の構成要素、すなわち動く発光体、既製品、影、空間は、自転車建築のザル案の要素と類似している。ただし、自転車で走ることで太陽光の入射方向を制御する本作は「10番目の感傷(点・線・面)」と違い、影のサイズを変化させることができない。そのため、「10番目の感傷(点・線・面)」を模倣するのではなく、自転車走行によって生じる影の表現に焦点を当てることが重要だ。カメラオブスキュラとも組み合わせてみたい。

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