2023年4月~の自転車ヘルメット着用「努力義務」は何を意味するか(個人と社会、それぞれの視点から)

近頃よくニュースになっている自転車ヘルメットの努力義務化とはどんなもので、どんな影響が考えられるか。主なポイントを、擬似的な対話(個々人の生活の視点)と解説(社会的な視点)の2パートに分けて整理してみた。


1. 対話編(個々人の生活の視点から)

― 4月から自転車のヘルメットが義務になるんでしょ?

完全な義務ではないんですが、2023年(令和5年)4月施行の改正道交法で「自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない」と定められたんです。「努めなければならない」、これを行政の言葉で「努力義務」といいます。努力義務は、いきなり義務化すると当事者からの反対が激しいと予想される場合に利用されることがあります。二輪車・原付のヘルメットや車の後部座席のシートベルトも努力義務を経て完全な義務になっています(リンク先PDF p. 10)。努力義務の段階では、罰則がつくことはありません。

― とりあえず努力義務なら実際のところは今とほぼ変わらないってこと?

そこは警察がどれくらい熱心にこのルールを守らせようとするか次第なんです。これまでも、保護者は子供が自転車に乗る時にはヘルメットをかぶらせるように、という努力義務がありました。だからといってそのことで警察に注意された、なんて話は聞きませんよね。でも今回の道交法改正に関しては、広報啓発の名目で、既に街角で警察官が自転車利用者を呼び止めて「ヘルメットをかぶってくださいね」と伝えたりしています。4月1日以降、ヘルメットをかぶっていないと警察に呼び止められることが増える可能性はあります。

― 罰則がなくても、警察に呼び止められるのは嫌だなあ。

そうですよね。それにまた、これまで自転車で走っていて「歩道を走るな!」とか「車道を走るな!」とか警察以外の人から怒鳴られたりしたことがあるかもしれませんが、4月からは「ヘルメットをかぶれ!」というバリエーションが増えるでしょうね。

ー ヘルメットをかぶるより、自転車をあまり使わなくなりそう。

同じように考える人は沢山いらっしゃいます。マーケティング会社が既婚女性を対象にアンケート調査をしたところ、3割の人が、ヘルメット着用努力義務化で自転車での食料品の買い物を減らしたり、完全にやめると思うと答えたそうなんです。

ー そもそも買い物とかで自転車に乗るのにヘルメットが必要とは思わないんだけど?

安全面だけを考えれば、かぶった方が当然ベターですが、それは歩いている時についても言えるんですよね。自転車用ヘルメットに関してよく言われる、頭の怪我で亡くなる人が多いという話、これも実は歩行中の交通事故の方がその危険性は高いんです。歩く時にヘルメットをかぶる努力義務、なんて話になったらおかしいですよね。なのに自転車だと身につけるものや髪型の自由が制限されるということになり、社会生活上のデメリットが安全面のメリットと釣り合わない場合も多いと考えられます。

自動車0.09%
自転車0.32%
徒歩1.4%
移動手段ごとの全交通事故死傷者のうち頭か顔の怪我が原因で亡くなった人の割合。e-Stat 「道路の交通に関する統計 交通事故の発生状況2 死傷者の状況 2-4-2 損傷主部位別・状態別死傷者数 年次 2021年」に基づき作成。

― ヘルメットをかぶらせるより、道路をなんとかしてほしい。

同感です。自転車乗車中の死亡事故の4分の3は車との事故なんです(リンク先PDF p. 7)。自転車ヘルメットは対自動車事故にフォーカスした製品ではありませんし、交差点で曲がるトラックに巻き込まれたりしたら、どんなヘルメットをかぶっていても助かるとは思えませんよね。人命を守りたいなら車との衝突がそもそも起こらない道路、ぶつかっても被害が大きくならない道路を作るべきですし、車に組み込む装置でも自動ブレーキなどできることはまだまだあります。

ー 事故の補償もヘルメットをかぶってるかどうかで変わったりするの?

自転車保険の中には、自分の被害に対して出る保険金にヘルメットの着用の有無で差をつけているものもあります。また将来的には、自転車で事故に遭い頭を怪我した場合に、ヘルメット不着用が「過失」とされ相手の責任の割合が減るかもしれません。二輪車の事故などの裁判例から、ヘルメット着用の社会への浸透度がこの判断を左右すると考えられるようです。努力義務の段階では可能性は低そうですが。

― ヘルメットが普通になる頃には自転車が普通の乗り物じゃなくなってそう。うちも車メインになると思う。

わかります。道路の安全性・快適性の向上がなかなか進まないばかりか、その代わりにはならないヘルメットの着用・不着用を自分で決められないようになっていったら、自転車は日常的な乗り物ではなくなりますよね。もちろんその結果として車を選ぶ人が増えると、いわゆる車社会の問題がさらに深刻になってしまいますので、国や自治体はいいかげん本気になって自転車を使い易い環境を作ってほしいですし、私たちも今まで以上に声を届けていかないといけませんね。


2. 解説編(社会的な視点から)

ヘルメットは役に立つが、強制すべきではない

まず誤解のないように書いておくと、この記事はヘルメットをかぶることを否定するものではない。対話編にもある通り、自転車乗車中の頭部の保護にヘルメットは一定の役割を果たしてくれる。だがそれが意味を持つのは、どこかへ行くのに自転車という手段が選ばれた場合の話である。

ヘルメットは、かさばる、髪型が崩れる、暑い、服装に合わない、などの実際的かつ軽視できないデメリットを伴うものだ。かぶる/かぶらないの選択の自由が失われ、着用が強制されれば、自転車そのものが選択肢から外れる場面は確実に増える。代わりに車が選ばれることが多くなれば、道路の危険度は上がってしまう。これは今回の法改正の意図に合ったものなのだろうか?

対四輪車対二輪車対自転車他・不明
歩行・死亡770 (96.5%)2152798
歩行・重傷5811 (89.5%)301295836490
自転車・死亡186 (96.3%)610193
自転車・重傷4441 (86.4%)2473351155138
2021年に歩行中または自転車乗車中の被害事故(過失が相手より少ないと判断された事故)で亡くなった方、重傷を負った方の相手。ITARDAの交通事故統計表データ「当事者相関別 状態別 死傷者数(第2当事者側)」(表番号03-21GZ203)を元に作成。

もちろん4月から課されるのは義務ではなく「努力義務」である。しかし努力義務の段階でも、様々な社会的強制力は生じてしまう。対話編で例示した警察官による声かけや一般市民からの叱責だけではない。自転車利用中の事故に関する警察発表や報道で「ヘルメットをかぶっていなかった」という被害者非難(victim blaming)フレーズが定番化することは容易に想像できるし、テレビ番組や広告などでも自転車に乗った人物にはヘルメットをかぶらせることがコンプライアンス上の慣例となる可能性がある。そのようにして、ヘルメットなしでの自転車利用は好ましくない、という空気が世間一般に広まっていく恐れがあるのだ。

国民的アニメ『ドラえもん』では既にあのジャイアンまでもがヘルメットをかぶっている(動画18秒~)。

やるべきなのは、危険の源に向き合ったインフラ整備

ヘルメット義務化の安全面のメリットは、義務化がもたらすであろう自転車利用の抑制に伴う、より広範な健康面・環境面の損失と釣り合わないと見込まれる。政府としては […] 自転車利用者にヘルメット着用を勧めはするが義務化するつもりはない。

2022年12月5日のイギリス議会での質問に対する運輸担当大臣の回答

現在イギリス政府の歩行・自転車利用推進機関で長官を務めるロードレースの英雄クリス・ボードマンは、ヘルメット義務化の議論が今より過熱していた2014年、民間の自転車利用推進団体の政策アドバイザーとして、ヘルメットをかぶらせようとする当時の政府の取り組みを「銃撃を止めさせる立場の人々による、防弾チョッキ推進運動」と批判した。自転車利用そのものがとても危険であるかのようなイメージを植え付け、実際の危険を取り除くためのインフラ整備から目をそらさせている、というのだ。

日本では車の増加による「交通戦争」が最悪の状況にあった1970年自転車での歩道通行が法律で容認されるとともに(※これが認められているのは日本だけではない)、自転車道等の整備が「努力義務」として行政に課されたこの努力義務はほぼ忘れられたまま50年以上が経ち、4月からは自転車ヘルメットの着用が努力義務になる。その影響で自転車利用自体が減っても、それが差し引かれずに「自転車利用中の死傷者がこれだけ減りました!」とヘルメット努力義務化による安全性向上が謳われる、ということも頻発するだろう(前例は無数にある)。

ヘルメットの強制(社会的強制も含む)は、行政が担うべき責任を曖昧にしてしまう。だが安全で快適な交通を実現するための最善の方法、効果が大きくまた持続可能な施策は、殺傷力の高い機械を使わなくても人が円滑に移動できる環境を整えることである。徒歩や自転車での移動に必要な「努力」を増やすのではなく減らしていくこと、それがこれからの社会の進むべき方向のはずだ。

オランダの自転車利用風景。

13 comments

  1. 昔原付バイクはいきなりヘルメットが義務化されたけど、免許証のない自転車乗リにはザル法というより警察はやってますよアピールのためのパフォーマンスでしょ
    警官が逆走してるしね!

  2. 帽子に見えるヘルメットもOKだから、義務化したら取り締まるときに見分けつかないでしょう。電車乗るとき駅までとか買い物で店に入るときとかヘルメットはどうするのか?持ち歩くのか?置いていったら、イタズラとか盗まれないのか。駐輪場とかにヘルメット預ける施設等をセットで始めるべきでは?

  3. 数年に一度位しか自転車乗らないし
    ホームセンターでヘルメット手にとって見たけど
    あれで交通事故から頭部を守れるのか疑問

  4. 義務化してヘルメット被りたくない安全意識の低い邪魔な自転車がいなくなってくれればいい。

  5. 現在の警察は,日本にとって良くない外国勢力に乗っ取られています(日本政府もメディアも大企業などの企業も)。要するに不便な国にしようとしているわけです。電動自転車や電動キックボードの免許制・ナンバープレート取り付けの義務化もそうです。将来性のある便利なものに規制をかけて発展にストップをかけるわけです(高齢者歩行の負担軽減、自動車の渋滞対策、電動ボートなどを使用した新しい生活スタイルなどを妨害)。

  6. 国が道路の安全対策してない責任を自転車ユーザーに押し付けてるだけだと思う。
    自動運転車もろくに開発してない。自転車用道路は細いかガタガタ道で車とスレスレで危険。だったら歩道に行くのは当然だわ、それを怒鳴る馬鹿が頭おかしいだけ。
    実質的な自転車増税やん。ヘルメット代は国が出せよ 能無しが笑。

  7. 「ヘルメットを強制するな」という前に自転車の利用者があまりにも交通安全に対する意識が低すぎるという問題があると思います。信号無視や逆走、車道から歩道への無意識の乗り換え、無理な横断など、自転車利用者のリテラシーの低さがヘルメット義務化につながるのではないかと思います。

  8. ヘルメット着用 なんて自己責任の範疇 なのに 、これを確認で決めるって言うのがそもそもおかしい。
    歩行者の事故で頭ぶつけて死ぬ確率の多いのに自転車で着用しろって言うんだったら 、そもそも 歩行者の方も ヘルメット いるんじゃないと思う。
    何でもかんでも規制しなきゃ気が すまない 日本の警察ってどうなってるの。

  9. 自転車にヘルメットかぶれて言うなら車の規制をもっと厳しくするべきだわ。何でも義務付けて頭おかしいんとちゃうか

  10. くだらん事ばっかり義務づけてんじゃねぇわ。自転車にヘルメット何か必要ねぇわもう少しまともなことに頭使えやアホ共

  11. くだらん事ばっかり義務づけてんじゃねぇわ。自転車にヘルメット何か必要ねぇわもう少しまともなことに頭使えやアホ共

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