[車輪の言葉、車輪の数] テンション

この連載では自転車の車輪やホイールについての考察を書き進めてきたのだが、前回記事の内容についてのコメントを受け取ったので、ここに取り上げさせていただいた。

改めて考えてみると、細いスポークで(しかも今回は少ない本数で)数十キロもの体重を支えられるのか疑問に思いました。連載をざっと見返してみましたが、そのあたりの解説はないですよね? ぜひ、初学者向けの車輪の力学講座をお願いします。

前回はホイールの自転車への組付けを紹介した。そこでは新しく付けたホイールの特徴的なスポークについても書かせてもらった。

車輪の力学については筆者自身もまた初学者であり、持てる知識を伝えるという意味での教える立場にはない。それでも「教えることは学ぶこと」という言葉にあるように、共に学ぶ機会を提供するという立場ならば、自転車のホイールが力や重さに対応している仕組みを調べて行くこともできるかもしれないので、自分自身でもスポークが重量を支えている仕組みを調べてみることにした。

ここでお話するホイールは、回転軸となる「ハブ」と円周部の「リム」とを、細いワイヤー状の「スポーク」を張ってつないでいるので、「テンション・スポーク・ホイール」と言うことにする。4輪乗用車などに使われているような、スポークが太く、材質が持つ剛性で車重を支えているものは、「ソリッド・スポーク・ホイール」というもので、仕組みが違っているものだ。

まずテンション・スポークの1つ目のポイントとなるのは

  • ホイール全体はスポークに初期張力をかけて組まれている

ということである。スポークはハブとリムの間で「突っ張り棒」のようにはさまっているのではなく、両端を引っ掛けて引っ張っているような状態になっている。細いワイヤー状のスポークは、引っ張り方向には強さををもっていて、横向きに曲げる力にはとても弱い。また、縮む方向にたいしてもほとんど強さを発揮しないと考えてよい。

そしてこの細いスポークでリムとハブの間をつなぎ、適度な張力を与えてピーンと伸びた状態で固定する。(なお今回の記事では取っ掛かりの理解を助けるためとして、ごく単純化した力の関係だけを考えていることをご承知おき願いたい。もちろん下の図のような状態では車輪は自転車に取り付けることはできない。)

外周の大きな円がリム、中央の小さな円がハブを表している

このように、スポークはハブとリムの間の空間で、まるで糸がピーンと引っ張られているような状態になる。こうしてみると、ハブはリムから「吊り下げられている」という状態になるのが分かる。

つまり、ハブには自転車フレームの重量や乗っている人の体重によって上から下に向かって力が働き、ハブからリムに向かって上方向に張られたスポークが、ハブにかかってくるそれらの重量を引っ張り上げているようなイメージとなる。

中央のハブに重量がかかり、スポークがそれを引っ張っている

自転車が静止しているときはこのようになるが、車輪が回転するときのことを考えてみよう。車輪の回転によって、スポークの張力は変化することになる。そのスポークの張力が最大となるのはスポークが上方に回ってきたときだ。

赤色:張力が強まる 青色:張力が弱まる

逆に、スポークが下方に回ってきたときにはスポークに圧縮力が働く。しかし、初期張力が張られているのでそれが緩むことによって力を吸収し、スポークが壊れてしまわないようになっている。

そしてスポークの数が多いほど、一本一本に必要な張力は少なくてすむ。ロードバイクの前輪でよく使われるラジアル組みスポークであれば、これを増やしていくことで複数のスポークでハブへの荷重を支えられていることが分かる。

8本スポーク ラジアル組み

スポークにはどのような力が影響しているのかを整理すると、次のようになる。

  • ハブの下側のスポークは重量によって張力が緩む
  • ハブの上側のスポークが張力を増す

これを走っているときに周期的に繰り返しているのだ。

さて、それでは具体的にどのくらいの張力がスポークに働くのか。次回は実物の自転車を用いて、実際にそれを観察してみることにしようと思う。

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