新型グループ・ライド 2020 Summer 開催レポート

IAMASオープンハウスの一環として行われた新型グループ・ライド 2020 Summerは、新型コロナウイルス禍とともに、異常気象とも言える長く降り続く梅雨空の元で行われた。激しい雨で走行を断念した人も多かったものの、結果的に自転車に乗った参加者と自宅から参加者との割合が程良く、絶妙なホストの進行でトーク・ショウとしても楽しめたと思う。

具体的には自転車に乗っていたのはIAMASがある岐阜県西濃地区で6名、湘南で1名、京都で1名、合わせて8名によるグループ・ライドとなった。これに加えて司会進行役のホストが2名、活発に発言をいただいた自宅からの参加者が3名であった。ちなみに、Zoomミーティングへのログインは36名であり、同時配信したYouTube Liveでの視聴者が概算で数十名であった。


新型グループ・ライド 2020 SummerのZoomミーティング記録

このイベントでは雨が上がって自転車に乗り出したり、リクエストに応じてコースを変えたりと各自が臨機応変に行動していた。山間部に入って電波が途切れたり、自転車道路ながら悪路に苦労したりといっとトラブルもあった。最後の最後に離れていた人達が出会ったハッピーエンドを含めて、すべてが自然に発生した出来事であった。以下に参加者からのコメントを紹介する。


松本 伊織(埼玉)

自転車でのグループ・ライドは、参加者同士の距離が急に近付く。そんな体験を何度もしてきている。常に数m〜数十m離れて走ることもあるし、そんなに言葉を交わさないことが多いのにもかかわらず、ライドの共有を境にそうした感覚が得られることは、いつも不思議に思っていた。

私は「乗車しない参加者」として今回の新型グループ・ライドをZoomで傍観していたが、それぞれの空間で起こること、行われることのドキュメンタリー性もあり、ほとんど面識の無かったライドをしている方々が急に近く感じられた。時にこちらから乗車位置近辺の話題を提供し、ライド参加者が現地に赴き、その場の光景をリアルタイムに伝えるというインタラクションがあったことも、そんな感覚を抱かせてくれた一因かもしれない。ライドというハブを通じて、ノード同士がつながるような感覚とでも言えばいいのだろうか。そこはリアルのグループ・ライドに近しい感覚だと思った。

一方で、この試みはまだ新しいだけに、最適なネットワーク・デバイスという解がまだ無いように思う。スマートフォンとZoomアプリさえあれば参加できる簡便さ(電源と回線が重要であることは再確認された)とトレードオフにもなるが、特に参加ライダーは運転と同時にスマートフォンの操作が必要になるケースも多い。マイクのオン/オフくらいはハンドルバーでコントロールできるデバイスがあると便利だろうな、というのが率直な感想だ(可能であればZoomの画面切り替えなどもできたら素晴らしい)。また、フロントカメラがライダー自身の姿をほとんど映さないのは、ライドの共有という点では少し残念だ。これは少数グループなら、相互に映し合えるので解消できるかもしれない。

それでも、この試みは明らかにグループ・ライドであったと私は結論づけたい。残念なのは、私の居住地では大雨が降っていて自分自身がライドできなかったことだが、勇気あるDNS/DNFはサイクリストとして推奨されるべきものだと、自らを慰めるのである。


神谷 典孝(東京)

昨日は天候が悪く、参加できなかったことが悔やまれます。各所で分散しているメンバーがオンラインのコミュニケーションで合流、自転車レーン縛りで走行、砂の上を走行などのチャレンジが見られたのがこれまでにないグループ・ライドだなと感じました。

今後の課題としては自転車に乗るのが気持ちいいエリアでのモバイルデータ通信との相性の悪さでしょうか。東京は電波はどこでも入りますが自転車に乗るのは難しいのとは真逆ですね。


四方 幸子(東京)

少し覗こうと入ったのですが、いきなりZoomで皆さんと出会え、刺激的なひと時となりました。実際、赤松さんをはじめIAMASの先生や関係者が自転車で各地を移動中で、おのおのの視点を介した「体験」が同時多発的で展開し、飽きることがありません。個々の第一人称的視点と俯瞰的視点、カジュアルに話す現場という複数の層を楽しみました。赤松さんが数年来進めている、デジタルとフィジカルや内と外をつなぎ行う理論・実践的探求の進化を新型グループ・ライドで感じたとともに、今回「オープンハウス」の一環で行われたことにIAMAS精神(唐突だけど、時代が後でついてくる!)を感じました。


柴原 佳範(神奈川)

いつもは1人で自転車に乗ることが多いのですが、新型グループ・ライドでは自分のペースで走りながらも他の参加者と風景を共有し会話ができてとても楽しめました。本来なら走行中は他の参加者の映像は見ることができないのですが、Ground Controlの方々が地図上の位置情報と映像を見ながら会話を参加者に振るなどして円滑に進めてくださるので、私はラジオのような感覚で会話を聴き、景色を楽しみながら気持ちよくサイクリングできました。参加者が走る京都と横浜の自転車レーンを比べたり、自分の走っているルートについて共有したり、コロナ時代の自転車と移動についてなどの様々な話題と会話が生まれ、従来のトークショーなどでは起こらないような交流が新鮮でした。自転車に乗り身体を動かしながら、インターネット上でのビデオ通話を通して思考と会話を行うこの新型グループ・ライドはまさにCritical Cyclingを体現したようなイベントだったなと感じました。


北村 穣(東京)

ライブ配信お疲れ様でした、楽しく拝見しました。

当日東京が結構な雨で自宅からの接続でした。 一旦Zoomでログインしたのですが、設定に手間取り会話も進んでいて、初対面の人がほとんどだったので途中で入るキッカケが難しくすぐログアウトしてしまい、その後はYouTubeで見ていました。

雨でなく自転車や散歩しながら参加できていたら、また違っていたかもしれません。


守下 誠(岐阜)

終盤の話題にもほんのちょっと出ていましたが、「双方向コミュニケーションができるラジオ的なコンテンツ」を聞きながらライドをする、という状況が面白かったです。想像していたよりも会話がスムーズにできた(松井さんや武子さんのミュートのオペレーションが上手だったのでしょうか?)ので、カオスな状態になりすぎず、終始ストレスなく楽しめた印象があります。ただ、あの感じを楽しめたのは知り合いが多かったからなのかな?とも思うので、参加してくださった学外の人がどんな印象をもったのかは気になりました。

吉岡さん(京都)や柴原くん(湘南)の様子が中継されるタイミングでは、走行中だったので音声のみから景色を想像する必要があったのですが、自分自身がライドしているのでなんだか普段より想像力が掻き立てられる感じがしました(笑)。「自分の周りにも中継できるものないかな?」という気持ちになり、いつもより視野を広げてライドができたような気もします。

なにより、久しぶりにたくさん動けたので生き生きとしました。日焼けがかゆいです。定期的に開催したいですね!


赤松 正行(岐阜)

時折小雨が降る中、マウンテン・バイクで山間部を走って県境である峠越えを目指しました。しかし集落を抜けると電波が弱くなり、やがてまったく電波が入らない状態に。道路は整備されて走り易いにもかかわらず、交通量が少なくなり緑豊かな景色が美しくなればなるほど電波が届かない二律背反状態。新型グループ・ライドが通信インフラに依存していることを痛感しました。

一方で、会話しながら走行するのは楽しく、思いがけない人と話ができたのは嬉しかったですね。多くの視聴者を意識して、必要以上にサービス精神を発揮してしまうのが可笑しい。わざわざ小道に入ったり、釣り人のいる小川に出たり、大きなダムから下を眺めたり…。これは通常のグループ・ライドでもメンバーを面白い場所に案内しようとする気持ちに似ているのかもしれない。

ところで、他のサイクリストの様子は伝わってくるものの、一緒に走っている感覚までは得られなかったのが正直なところでした。走行中はスマートフォンの映像を見るのが難しいこともありますが、後で見返しても、大雑把にしか状況が分からないように感じます。それほどまでに本来のサイクリングは全感覚的で高密度な体験なのだと思います。まだまだ頑張れ、テクノロジー(笑)。


吉岡 史樹(京都)

これまで何度かの新型グループ・ライドでは、参加者・視聴者の構成が様々でしたが、今回の特徴は「コントロールセンター」の役割にあたる参加者が複数名体制だったことによって情報の発信に厚みがあって、対話によって話題が深められていった印象があります。

その一方でライドをおこなっているメンバーは、配信における話題のリポーター、という立ち位置になる機会が多かった感じがします。ちょうど参加者からも「ラジオを聞いているようだ」という声が配信されていたように、ライドしながらの参加者としては「自分のハガキが読まれるかどうか」を気にしているリスナーの心境にも似たものがありました。

テクノロジーを用いたライドという形式で見ると、いろいろとギミックを考えがちなのですが、ことの本質はもっと単純なことにあるのかもしれません。

自分が走る京都から400キロ以上離れた湘南海岸を走る参加者からの「江ノ島が右手にみえる、左手にみえる」という話題リポートは、情景を想起するもので印象に残りました。海岸線に沿ってライドしたことがあると、山が右に見えたり左に見えたりする光景に覚えがあるのですが、そういった光景は多くの場合、心の中の独り言で完結するものです。それが声となって「シェア」され「そう、それあるよね、でも自転車から降りてしまうと言う機会もないから忘れてたけど、よく言ってくれた」というニッチな快楽(?)がありました。

新型グループ・ライドにとってはコントロールセンターが、フィールドから集まってくる賞味期限が超短期な情報を、よりよくとりまとめて場を作り出す「MC」あるいは「DJ」の「ブース」なんじゃないかと空想していました。

私自身としては、京都市内に整備が進んでいる、路面舗装による自転車レーンを使って、観光ライドをする想定でのライドを行いました。御所を出発点として、電車アクセスが難しく混雑度合いが高い銀閣寺周辺エリアを目指すことにしました。

ルールとして「自転車レーンのないところは自転車を降りて押す」こととしました。

御所周辺地域は車道脇に設けられた路面塗装による自転車レーンが整備され、御所内を含めて順調にライドできました。

しかし、河原町通、今出川通を通り川端通に向かうと、自転車レーンの舗装が途切れました。それ以降、レーンを探すも見つけられず、30分ほど自転車を押して歩きました。

しばらく押しを続けましたがこれ以上の続行は不可能だと判断、それ以降は通常の車道の左端走行で、ようやく東山、銀閣寺前までたどり着くことが出来ました。

結論として、自転車レーンによって観光地にアクセスすることの困難さが明らかになりました。将来的な観光行政への自転車活用を考えるならば、取り組みの徹底を進めていくべきだと感じました。

現在は市内中心部への塗装レーン整備が目につきますが、京都の観光地は周辺部に集中しており、そのような地理的な特性も、整備優先度にも反映するべきではないかと考えます。


伊村 靖子(岐阜)

オープンハウス全体では、3つのタイプの企画があったように思います。オンライン上の体験型作品、オンサイトでの配信とディスカッションを組み合わせた参加型企画、そして、オンラインとオンサイトを組み合わせた企画です。新型グループ・ライドは最後のタイプの唯一のケースで、組合せの妙によって参加者の関係性が変わっていくところに可能性を感じました。

2時間の企画の中で、ウォーミングアップ的な会話に始まり、次第に盛り上がっていって、最後には奇跡の出会い?が起きるという展開も含めてライブならではのグルーヴ感がありましたね。私の場合、普段のライドに期待するのは五感を研ぎ澄ます感覚や仲間との適度な距離感なのですが、新型グループ・ライドは全く違う種類の楽しみだと思います。決まった時間内でそれぞれの役割を演じる感覚がゲーム的ですし、見る・見られる関係の中でライドする人の行動に変化が起きたりするのは、今までにない質の共有だと感じました。目の前の道を走りながら、全く違う場所でのライドを想像するという経験もバーチャルな感覚で新鮮でした。

YouTube Liveを視聴していた人たちが一体感を感じられたのかは疑問です。それを意識しすぎて、名所案内の実況中継になってしまうのもどうかと思うので、あくまでもライドの感覚を共有するという趣旨でよいように思いました。


柴田 英徳(岐阜)

同じ時間に違う場所を走っているという一体感をすごく感じ魅力を感じました。それは、自分はバイクでツーリングしたことはないですが、バイクのツーリングでグループメンバーと通話しながら走るような感覚を似ているのだろうなと想像しました。また、違う場所からスタートして好きなように走ったのにも関わらず、最終的に合流する人たちが生まれたのも、終始オンラインで繋ぎながら会話していたからこそなのではないかと感じました。

新型グループ・ライドをすることを通して、通常のグループ・ライドでの、同じ道を共に走っているからこそ、人それぞれ違う気づきや、一緒に走っている誰かがふとお気に入りの場所やお店を思い出して連れて行ってもらうということに魅力を感じるのだと気づかされました。

また、自転車に乗っている時は、無心に走りたいなという時もあるので、急に話しかけられることに少し抵抗を感じました。さらに、途中で個人的に牛小屋を見つけて「かわいい牛見つけました!」とか共有したいという瞬間があったのですが、他の話で盛り上がっていたので邪魔したくなく、1人で楽しんで次の場所に行った場面もありました。オンライン飲み会でもそうですが、大勢になると話し辛さが生まれてしまうのは課題ですね。

リアルのグループ・ライドを思い返すと、走る時は無心で走って、話す時は休憩して話すというメリハリの心地よさがあると感じ、それをどううまく取り入れるかは大事なポイントだと思います。例えば、何キロ走ったらとか何分走ったら休憩してどうだったか、Discordのように少人数のグループを簡単に行き来できて話せるようにすることで改善されるのかもしれません。

個人的に驚きだったのは、他の場所についていろいろ説明されてもっとその場所について想像しながら走るのかなと予想していたのですが、自分が走った道が初めて通った道だからか自身の目の前の景色をキョロキョロ眺めたい想いが優先して、他の場所を想像することがあまりできませんでした。トークを聞けるのは、他の人が言うように、インタラクションを持ったラジオみたいで面白かった反面、目の前の風景を味わうことの機会を妨げるのかなとも感じました。


以上のように、参加者からは好意的な意見が多く、イベントとして一定の成果があったと思う。筆者も純粋に楽しむことができた。そして、知己がない人が参加しにくい、近くを並走している感覚は得られない、人里離れた場所やトンネルなどでは携帯電波が途切れる、走行しながらのスマートフォン操作は難しい、Zoomの柔軟な運用がしにくい、などが今後の課題として確認できた。

ちなみに、従来のグループ・ライドであれば特定の人々が特定の時刻に特定の目的のために特定のコースを走る。新型グループ・ライドではこれらの条件が希薄であり、自由度が高過ぎるとも言える。しかし、何らかの方向付けを避けることで、従来にはない新しい展開が生まれることを期待していたわけだ。そのような試行錯誤を寛容し、軽やかに参加いただいた皆様に感謝申し上げます。

【追記】グランド・コントロールを担当した松井茂によるレポート「自転車に『乗る』ためのレッスン 第18回 実況者のレッスン」を公開しました。(2020.08.06)

3 comments

  1. コメント掲載ありがとうございます。
    1:49:30辺りからされている、快楽原則の話がすごく重要だなと思っていたのですが、私を含めどなたもコメントで触れていなかったので、あらためてコメントとして残しておきたいと思います。

    1. コメント&コメントありがとうございます。快楽原則は通奏低音みたいな感じでしょうか。とても大切ですね。クリティカル・サイクリング宣言の第1項「自転車に乗ることは、楽しみである」も同じことを言っていると思います。

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