ソウルでアーバン・ライド

ソウル在住の知人が言うには、ソウルはもとより韓国で自転車に乗ることは自殺行為らしい。日本以上に車社会であり、運転が荒く、歩行者や自転車への気遣いはゼロだからと言う。それならばそれを確かめるべく、Raphaでロード・バイクを予約した。そもそも数少ないRaphaの店舗があるのだから、それなりのサイクリング人口があるに違いなく、相応の自転車環境があるはずだ。

Rapha Seoulはカンナムのアックジョンの一角にあり、そこから少し北に進めばハンガンに出る。ハンガンはソウルの中央を流れる大河であり、両岸の高層ビルとともにウォーターフロントの壮麗な景観を作り出す。その河川敷は公園として開放されており、なんと全長105kmに渡って自転車専用道が整備されている。ソウルでの自転車コースNo.1と言われるくらいに有名であり、親しまれているらしい。

実際に走ってみても、ほぼ平坦で上質の舗装道路は走り易く、水辺の景色を眺めながら走る爽快感は格別。休日ともなれば多くの人が走っているものの、混雑するほどではない。ロード・バイクは少なめで、マウンテン・バイクや実用車が多い。大気汚染のためか、黒いマスクをしている人が多いのが印象的。大音量で音楽を流しながら走行している人もいる。これが俗っぽい韓国歌謡曲だったりする。

自転車道路沿いには適度な間隔でトイレや休憩所があり、カフェやレストラン、自転車ショップや整備ピットまである充実ぶり。また、数箇所に自転車レンタルがあるので、手ぶらで訪れてもサイクリングが楽しめる。子供用の自転車からスポーツ自転車、さらには二人乗りのタンデム自転車まである。ただし、整備は必ずしも良くなく、チェーンがきしんだり、ギアが変えにくかったりした。

ハンガンの楽園ぶりに比べて、市街地では自殺行為が伺えるようになる。歩行者は歩道の自転車レーンを無視して歩く。車道には自転車レーンがないか、あっても恐ろしく狭い。自動車、特にタクシーは乱暴に走り抜ける。それでもなんとか自転車に乗れたのは、カンナムの道路事情が良い地域だったからだろう。これが旧市街地になると一気に状況が悪くなる。とは言え、深センに比べると100倍マシだ。

ちなみにソウル市民は地下鉄を利用して、サイクリング・ロードまで移動する。土日休日に限られるが、先頭車両と最後尾車両に自転車をそのまま載せることができるからだ。分解して袋に入れる必要はないし、追加料金もない。気軽に利用できるからだろう、駅構内や車内で何台も自転車を見かける。ただし、車両には自転車を固定する機構はないので、常に支えておく必要がある。

このような体験を通じて、東京よりもソウルのほうが自転車環境が良いと思えてくる。中心部での自転車の走りにくさは五十歩百歩であるし、ハンガンの自転車道や地下鉄への自転車持ち込みは、明らかにソウルのほうが優れているからだ。知人の警告にしろ以前のレポートにしろ、韓国は自転車後進国のように思われているものの、それ以上に日本が遅れているのかもしれない。

【追記】適切なマップが見つからずにいたが、Naver Mapアプリで検索するとハンガン自転車道のルートが表示されることが分かった。知人によれば、韓国ではGoogle MapsやApple MapsよりNaver Mapのほうが情報が多く適切で、自転車としてのナビゲーションも可能であり、実用的だと言う。また、Naver Mapでの記述に従い、初出時は56kmとしていた全長を105kmに訂正した。(2019.07.10)

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