2007年パリで生まれたヴェリブ式と、15年北京で始まった中国式の2つのタイプのシェア自転車は、世界の大都市に普及。市民の足として定着した。
両者の違いは、駐輪場の有り無し、カードかスマホ決済、官営か民営である。両者には、解決すべき共通の課題がある。
一つは、放置・故障・盗難車が多発、防犯や都市景観を損なうこと。
もう一つは巨額の赤字が発生、民営はもちろん公営であっても永続性に疑問符がつく。
これらの課題が改善されたとき、シェア自転車は真に定着する。
━ヴェリブの現状は?
パリ市は、毎年1,600万ユーロ(約20億円)をヴェリブに投入したが、自動車渋滞や環境汚染改善に、さほどの効果は出ていない。
それでも自転車通行を奨励、通勤利用の増加目標(現在5%→22年20%)を掲げている。
道路も、パリを貫く2車線のうち1車線を自転車専用レーンに改造。郊外に延びる自転車専用道路も倍増の1,400kmに延長する。
━17年、10年間の運営契約終了とともに新業者を選定、新しい試みを実施した。
最初にヴェリブをモデルチェンジ。坂道や石畳の多いパリに合わせ軽量化(22→20kg)。またスマホを使って道程や所用時間を表示するパネルを車体に付けた。
年間利用料も値上げ(29→37.2ユーロ)、採算改善を図った。
また、全体の3割を電動アシスト新車に切り替え、年間利用料を99.6ユーロと高く設定。重い(25kg)が、楽に走れると人気がある。
さらに、駐輪場が満車の場合、別の駐輪場を探す必要があったが、満車でも返却できる機能を開発、弱点の一つを解決した。
しかし前途は多難だ。電動車化が進めばコストが上がる。駐輪場を郊外に広げる計画だが、設置費用が増加、他の自治体の協力が必要になり、盗難リスクも増す。
香港・中国の“中国式”企業6社がパリに進出したが1年ほど撤退。公営とはいえ、ヴェリブの問題解決の道のりも険しい。
━一方中国は、構造変革の真っ只中だ。
16~17年に雨後の筍のように誕生した100社もの運営会社は、18年になると相次いで倒産した。
都市交通での役割は人々に認識されたが、中国経済の減速とともに資金調達が難しくなり、残った大手も資本や経営が変化している。
首位「オッフォ」は、自転車代金未払いやデポジット未返還問題で裁判沙汰になり、しばしば破産報道が流れる。それでも独立路線を維持している。
2位「モバイク」は、オッフォとの合併話が流れると、シェア自転車進出を図る出前アプリ「美団点評」に吸収され、1部門として再出発している。
地方都市中心の3位「ハローバイク」は、比較的堅実と言われたが、ネット通販最大手「アリババ」に買収された。アリババはシェア自転車拡大に意欲満々である。
破綻した中堅の「ブルーゴーゴー」は、配車アプリ「滴滴出行」の傘下に入った。滴滴は電動アシスト車を加え、2輪事業部を新設、シェア自転車に本格進出した。
━シェア自転車の創業者たちは、勝ち残れば利益が出る、とばかりに過当競争に明け暮れた。
巨大な先行投資に比べ売上は小さく、頼みのデポジットは廃止され、広告収入も当てにならず、自転車損耗率は上がるばかり。未だ利益モデル構築ができていない。
━だがシェア自転車には、単なるレンタルビジネスではない、2つの重要な側面がある。
一つは、スマホを使うモバイル決済ユーザーの囲い込みである。
モバイル決済の2強、アリババの「アリペイ」と「テンセント」の「ウィチャット」にとって、シェア自転車登録者は、モバイル決済の資産になる。
アリババがオッフォに、テンセントがモバイク(=美団)に出資していることから、シェア自転車の戦いを「アリババ対テンセントの戦い」と評する向きもいるほどだ。
もう一つの側面は、シェア自転車利用者数億人のビッグデータの収集である。
IT巨大プラットフォーマーの美団点評・滴滴出行・アリババ・テンセントにとって、ビッグデータが多いほど、多角的な事業展開が可能になる。赤字を厭わずシェア自転車に力を入れる由縁だ。
すでに相打つ角逐が始まった。スタートアップ企業は、あちこちに出資するから関係は複雑だ。
美団は出資者アリババと縁を切り、滴滴と美団は互いに相手の事業分野に参入した。美団は株主テンセントの事業を脅かし、アリババとテンセントの戦いも激しさを増す。アリババと滴滴は、ともに出資するオッフォの主導権を争う。まさに新戦国時代の始まりである。
━オッフォ、モバイクたちの量的拡大時代は終わった。
これからは配置台数や経費削減、利用料値上げなど体質改善が図られる。盗難などの国民のモラルが上がり、損耗率が下がると、収益が増加する。
しかし、交通手段だけでなく、IT絡みの役割を担うなら、競争はさらに激化して、シェア自転車事業の収益化は見通せない。
舞台は巨大IT企業の戦いの場に移った。中国式シェア自転車の行く末は誰にもわからない。
そして、IT時代を迎えた今日、ヴェリブ式と中国式の最大の違いはそこにある。