「Radfahrschwadronen」は自転車部隊といった意味だろうか、サブタイトルの「Fahrraeder im Einsatz bei der Wehrmacht 1939-1945」が示すように、ドイツ国防軍で1939年から1945年まで使用された自転車についてのドイツ語文献。ハードカバーで全79ページの薄い書籍。本文にあたる文章は少なく、鮮明なモノクロ写真が1ページに2枚程度ずつ配されたビジュアル主体の本だ。
ドイツ国防軍自体は1935年に発足している。ベルサイユ条約で課せられた軍備制限を破棄して再軍備し、従来のヴァイマル共和国軍から改組した陸海空三軍から成るドイツの軍隊だ。本書が扱う1939年から1945年は、ポーランド侵攻に始まり、ベルリン陥落と降伏に終わる第2次世界大戦に他ならない。つまり、第2次世界大戦の実戦における自転車という観点で資料がまとめられているようだ。
ドイツ国防軍はHUGO BOSSによってデザインされた軍服の高度なファッション性と、全体主義を体現する一糸乱れぬ行動の様式美が相まって、強烈なプロパガンダを発している。ナチス・ドイツの戦争犯罪を知らなければ、単純にスタイリッシュだと思ってしまうだろう。本書においても、軍用兵器化された自転車や隊列を組んで進軍する自転車部隊の写真が何葉も収められている。それらがいちいちカッコイイ。
だが、見れば見るほど何か微笑ましくなってくる。何十人もの隊列はロード・レースのように見えるし、上半身を起こした乗車姿勢はママチャリでのピクニックを思わせる。兵器や弾薬が詰まった装備は、ロングライドのパッキングを連想させ、山野を走る姿はトレイル・ライドだ。平和ボケと侮ることなかれ。ティーガー戦車やメッサーシュミット戦闘機とは明らかに違う自転車、これこそを祝福しよう。
銀輪部隊の記事に記したように、自転車は最初期こそ期待されたものの、連合国は第2次世界大戦までに軍用に適さないと判断している。それにも関わらず、自転車部隊を強化して投入したのが、日本やドイツといった枢軸国だ。軍用自転車を有望視した精神構造が、敗戦に至る一因であったに違いない。個人の自由の象徴である自転車と、国家暴力に至る全体主義とは、決してなじまないのだから。
ところで、写真に添えられたキャプションを理解しなければ、その写真の意味を取り違える恐れがある。英語も怪しいが、まったくドイツ語を読めない筆者は、Google翻訳を利用して文意を捉えた。ただ、ドイツ語→日本語のリアルタイム翻訳は現時点ではサポートされておらず、ドイツ語→英語の翻訳の精度も怪しいと思われた。よって、誤認があるかもしれないので、ご注意いただきたい。