Starry Ride Prototype 0〜星空のライド失敗編

地表をスキャンするフロント・ライトは実効性がなかったが、さらに失敗が続く。その検証のために投影したレーザー光が印象深かったからだ。走行時の振動で様々に変化する光の複雑さと、身体に感じる走行状態とのシンクロ感の面白さ。この時は赤い光であったので溶岩流を渡る気分だった。光の色や形状によっては海、あるいは草原、あるいは星空のようにも感じると思えた。

そこで、自転車の前面に何らかの映像を投影するライドを試し始めた。この時、この企みを「Starry Ride」と名付けた。フィンセント・ファン・ゴッホの「The Starry Night星月夜)」からの連想だ。「星空のライド」とはロマンチックだが、元々は耳を切り落として入院した精神病院の病室から見た光景。美しい光景であると同時に、日常の裏側に潜む異世界が覗く。そんな作品を夢想した。

さて、人工的に作り出す星空ならプラネタリウム。そして、ご家庭プラネタリウムならHOMESTAR、と安直に考えた。持っていた初代HOMESTARは、マーフィーの法則よろしく、少し前に処分済み。仕方がないので、Lite2を新たに購入。こちらは電池駆動だから、自転車に適している。だが、あまりにも微細な星々は、夜とは言え、街明かりのある路上では視認困難で、走り出せば完全に見えなくなる。

安価なプラネタリウムとしては、大人の科学マガジンピンホール式プラネタリウムのキットがある。これは豆電球方式で、投影角度が広い。これも初代は知人にプレゼント、新型は箱入りのまま。組み立てていないのが幸い、星空のフィルムに自転車用のライトを当ててみる。だが、ぼやけた星すら映らない。何故映らないのかは付録(!)の記事にもなんとなく書かれている。高校物理は忘却の彼方。

また、同じような仕組みだが、見るからにチープなプラネタリウムも試した。こちらはフィルムの星が大きく、4つもLEDが付いている。壁際なら星空に見えなくもないが、少し離れるとボヤける。手が滑って机上で横倒しにすると、壊れて点灯しない。典型的な安かろう悪かろうな中華製品だが、後にPrototype 1として良い結果が得られたパーティ・ライトも似たような中華製品なので、侮れない。

これは後で知ったのだが、オランダのデザイナーDaan Roosegaarde氏が設計したFietspad(自転車道)も似た発想かもしれない。これは路面の小石が淡く発光し、星月夜の渦巻く空に似せた模様を描く。ゴッホの生地であるブラバントに設置され、遊歩道ではなく、自転車道であることも面白い。しかも、周辺のゴッホゆかりの地を巡るサイクリング・ルートは335kmと尋常じゃない。流石オランダ!

一方、Starry Rideは自転車で走れば、どこにでも星空が出現することを目指した。モバイル星空であり、並走するインスタント星空だ。いつか見た満点の星空の、あまりにも繊細で無数に煌めく星々とともに走ろうとした。だが、家庭用プラネタリムは真っ暗な室内で落ち着いて見るものであって、走行する自転車には役不足。かくして、星空のライド前哨戦は、あっけなく敗れた。

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