ジャケ買いとは、ジャケットの写真やデザインでレコードやCDを買うこと。今となっては意味不明だが、かつてはネットワーク配信どころか、ショップでの試聴も限られていたからだ。映画やDVDも同様で、ポスターやジャケットの雰囲気が頼りだった。当然、アタリハズレがあり、アタリだった時の嬉しさは格別。しかし、ハズレだった時は落ち込むことしきり。今回はそんなトホホな映画を3つ選んだ。
ニュー・シネマ・パラダイス
映画への愛を綴る映画「ニュー・シネマ・パラダイス」は、1988年に公開されたイタリア映画。少年が映画と映画技師に憧れ、青年となって恋愛に身をやつし、映画監督として成功して故郷に戻る。エンリコ・モリコーネの爽やかな音楽とともに、誰もが賞賛する名作だ。それに異議はないが、少年と映画技師の自転車二人乗りポスターがいけない。2人の表情があまりにも和やかで印象的だからだ。
だが、実際には自転車は僅かに登場するだけだ。確かにポスターに描かれた場面はあるが、数十秒程度のことだ。他には、大人気映画のフィルムを隣町との間で往復運搬する、文字通りの自転車操業と、30年ぶりに戻った実家の壁に掛けられた古い自転車が映る程度。2時間強の映画ながら、自転車のシーンは合計して3分もない。これでは素敵なポスターに裏切られた気分になる。
耳をすませば
「耳をすませば」はスタジオジブリ1995年の劇場アニメ。昭和な時代の郊外団地住まい少女の物語。「りぼん」に掲載された少女漫画が原作で、さもありなんの甘酸っぱい設定とご都合主義の展開に弛緩する。そんなこの映画の劇場ポスターは、夏空と洋館を背にした爽やかな自転車の二人乗り。さすがにクレームが多かったのだろう、後のDVDパッケージでは窓ごしに話す二人のそばに自転車が置かれている。
どちらの場面も映画にないのはともかく、自転車が重要な小道具だと思うのが当然。しかし、自転車は何回か登場するものの、まったく目立たない脇役に過ぎない。現れてもすぐに退いてしまう。明け方に自転車で出かけるのが、唯一の晴れ舞台。だが、それも僅か1分40秒ほど。二人乗り、右側逆走、斜度30%超激坂とアクセントが効いている割には淡々としている。砂糖漬けの物語が自転車を希釈したのだろうか。
ピーウィーの大冒険
泣く子もビビるティム・バートンが1985年に初めて監督した長編映画が「ピーウィーの大冒険」。脱力系の低予算B級カルト映画として知る人ぞ知る怪作。初参加となるダニー・エルフマンの音楽も盛り上がる。主人公のピーウィーが大切にしていた赤い自転車を盗まれて、それを取り戻すべく繰り広げるハチャメチャ珍道中。パッケージには、いかにもコメディアンらしいピーウィーと赤い自転車がおどけている。
この映画は確かに、徹頭徹尾、自転車を巡る物語なのだが、実際には自転車である必然性が感じられない。単なるモチーフとしてのドタバタ大騒動であるだけだ。もちろん娯楽映画として、気兼ねなく笑い転げれば良いのかもしれない。ただ、肩透かしを食らった気分になるのは、後のティム・バートンを知っているからだろうか。シザーハンズのような、ビッグ・フィッシュのような自転車映画を観てみたい。