ヘッドワークとは頭脳労働のことで、辞書的には知的作業を意味するが、暗喩として頭で考えただけの非現実的な仕事を指すこともある。中国の四川大学のデザイン・チームが考案したLumigridsは魅力的に思えるが、これぞ典型的なヘッドワークかもしれない。このアイディアは2013年に発表されているものの、その後数年を経ても製品化されていないようだ。
Lumigridsは自転車のハンドルに取り付けるフロント・ライトで、グリッド状のLED光を前方に投影する。このグリッド模様は地表の凸凹によって歪むので、窪みや障害物、段差や傾きなどが直感的に把握できることになる。通常の投影の他に、縦に幅広い高速走行モードと横に幅広いチーム走行モードを備える。映画「トロン」を意識したのか、青緑のLEDグリッドがクールな印象を与える。
ところが、このアイディアに対して、すぐに疑問が持ち上がる。通常のフロント・ライトよりも障害物の視認性が高いのか? 法令的に通常のフロント・ライトを使えば、グリッド模様が弱まるのではないか? LEDでは光が拡散してシャープな模様にならないのではないか? 自転車走行時の振動で投光像がぶれるのではないか?などなど。実写ではくCG画像しか見つからないのが、疑惑に拍車をかける。
Lumigridsがヘッドワークだとしても、それを疑うだけなら、それもまたヘッドワークに過ぎない。そこで、実際に試してみる。類似製品として、Celluon社のMagic Cubeというレーザー光でキーボード画像を投影するデバイスを使用。これを自転車のハンドルに取り付けるだけの爆速プロトタイピング。本来は机上で十数センチの距離で使うが、夜間に1メートル程離れた場所に投影して、問題なく視認できる。
さて、実際に走行してみたところ、予期していた以上に振動の影響が大きく、一般的な舗装道路でも、レーザー光は小刻みにブレている。少し悪路になると、投影される像は大きくブレて認識できない。今回はゴムバンドで簡易固定したので、ブレが大きくなったのかもしれない。しかし、相当強固に固定するBlazeでも同じようにブレるので、Lumigridsだけがブレを免れるとは思えない。
このような結果から考えると、Lumigridsgはヘッドワークと言わざるを得ない。ただ、簡単に問題が分かるアイディアを発表したのは何故だろう? それは特許や投資といった、きな臭い理由かもしれない。だが一方で、純粋にアイディアに魅了されたのかもしれない。実際、ブレが多くとも光を投影しながら走るのは、得も言われぬ楽しさがあるからだ。この検証での体験がStarry Rideに繋がることになる。