Cycling Edge 01: ダーク・ツーリングからサイクリング・エッジへ

IAMAS(情報科学芸術大学院大学)のプロジェクト実習「運動体設計」の一環として、昨年度はダーク・ツーリング(Dark Touring)を行ってきた。これは負の遺産を巡って自転車で実走する取り組みで、具体的には福島の帰還困難区域や巨大なダム湖に沈んだ村に残された地域、あるいは超高級観光地化するニセコや大阪万博建設地の人工島など11ヵ所にのぼった。記事としては12編だ。

いずれも印象深く、気づくこと、考えることが多かった。それは単なる物見遊山ではないものの、当該地域に居住または関係する人からすれば、ダーク(暗い、悪い)を否定的に捉えるかもしれない。しかし、そうではない。特異な場所に実際に出掛けることで現状を実感して考察し、未来へと繋げることができると考えた。それは無知や無関心がもたらす忘却、そして不幸の再来への警告にもなる。

このような取り組みは目新しいことではなく、ダーク・ツーリズム(Dark Tourism)として考察されている。ただし、観光ツアーのように要所要所を短時間で回るのではなく、周辺を含めて自転車で走ることによって現地の状況を体感することを目指したのがダーク・ツーリングだと言える。また、過去の負の遺産だけでなく、未来において負の遺産になりかねない現在進行形の事態も範疇とした。

さらに、特異な環境や状態になると、否応なく身体と意識が奮い立つ。心身を総動員して対処しようとするからだ。これは安泰な日常では必要とされず、眠っている能力を引き出すことになる。それは人里離れた厳しい自然の中や朽ち果てた危険な廃墟だけなく、何の変哲もない街角や大都会の喧騒の中でも起こり得る。そのことは昨年度の終わりに高松やホー・チ・ミンで気づくことになった。

そこで今年度の実践をサイクリング・エッジ(Cycling Edge)と名付けたい。自転車に乗って(サイクリング)、境界(エッジ)に挑む取り組みであり、ダーク・ツーリングの普遍化だ。これには特異な場所ので実走とともに、自転車そのものや取り巻く環境なども含まれる。言い換えれば、安定した日常や慣れ親しんだ社会に対して自転車による実践的な再考を試みることになる。

フレーム・デザイン:瀬川晃

ちなみにサイクリング・エッジはカッティング・エッジ(Cutting Edge、最先端や過激なといった意味)のもじりでもある。ただし、それは大胆な変革ではなく、小さな跳躍であって構わない。少しでも見方を変え、何かに取り組み、僅かな足跡を残す。その反復と循環(サイクル)によって一年後に何かが立ち現れるに違いない。それを夢想に終わせないために、まずペダルを踏むことから始めよう。

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