本記事は前回に続くモビル文学シリーズの第二回目となる。今回は小型プロジェクターを搭載した自転車によって街に映像として編集した小説を表示する取り組みを紹介する。
プロトタイプの制作はとてもシンプルで、事前に書いておいた小説を映像編集ソフトで文字ベースの映像を制作し、自転車のハンドル付近に装着したiPadと小型プロジェクターで進行方向に投射して実験を行った。
実際に映像を街に投影した様子。街灯がある場所でも比較的綺麗に映すことが出来た。東京や大阪など、実験を行った大垣よりも更に明るい街においては小型レーザープロジェクターを活用して実験を行う予定だ。アドトラックの自転車版のような取り組みも実施可能かもしれない。今回は暗い街でも文字が視認しやすいように映像のカラーを白と黒で統一した。
以下は大垣ロストデスティネーションという岐阜県大垣市をテーマにした小説を大垣の街に投影したアーカイブ映像となる。安全に配慮するため誰もいない深夜の街で星のように瞬く自転車に乗って、街中を駆け回った。映像は4TAKE分用意しており、街の街灯や道路脇の白線、自転車の影、後方から自動車に追い越される時の光によって映像の様子が動的に変わることに注目をして欲しい。
初めてプロジェクターを搭載して自転車に乗った時、あまりの楽しさに感動して冬の寒さで身体が凍えつくまでサイクリングをした。移動方向の正面を照らす自転車のライトと異なり、光が移動と共にどんどん切り替わっていく様子が初めての体験で面白かった。モビル文学は紙媒体・電子媒体で読む小説と異なり、街の中の一瞬一瞬が小説となる読書体験なのである。
上記の画像は私が所属している情報科学芸術大学院大学で展示を行った様子である。複数の人にアーカイブ映像を見て頂き、幾つかのの課題が浮かび上がった。
その一つ目は文字の視認性である。アーカイブ映像では、文字と画像が早いスピードで切り替わるが、物語の内容を把握している自分の身体感覚で映像を作っていたため、初見の人でも文字を見て内容が把握する工夫が必要であることが分かった。また日本語は意味の把握が難しく、例えば漢字を読んだ際にその意味を理解するまでに少し時間がかかることから、文字をまとめて表示行い視認性を向上させる必要があることを感じた。
また安全性にも課題があり、現状投影された映像を見ていると周囲の自動車への確認が遅れたり、映像装置の重さによって自転車の操作が困難になるというウィークポイントがある。自転車そのものを改造することで、ベストプラクティスを模索したい。
映像装置版のNEXT STEPとして、上記二つの課題解消に加えて街とのインタラクションをテーマに制作を続けていく。先ずはM5 Stackで自転車の速度をセンシングして映像の表示速度をコントロールすることで、自転車を漕ぐ身体感覚と読む速さを同期する実装をここに加えたい。また、安全性への対応については、自転車そのものを改造する必要があると考え、例えば先導する自転車の後方にラインを表示するバックライトを設置して誘導をするなど、工夫を凝らしていきたい。
いつかあなたの街でモビル文学を読めるかも!?次回の連載もお楽しみに!