Hangar – 新しい自転車格納庫 (1)

Hangar (ハンガー) は、自転車のための駐輪場である。ただし、駐輪するだけではなく、整備や修理などをはじめとした自転車の運用にとって快適な、未来の自転車社会に貢献する創造的なプロジェクトである。

自転車は個人の移動手段になる道具としてだけではなく、日常社会や人の住まう街や都市にとっての移動システムとしても注目されている事実は、近年様々な分野で見つけることができるだろう。また、道路における自転車走行のための環境整備の推進や、スポーツや観光を目的とした自転車ルートが発信されるなど、日常・非日常を問わずに自転車が活躍することで、自転車文化が発展しつつある機運も感じることができるだろう。

ところで自転車は、人が乗っていないとき、どのようにしているだろうか。自転車で自宅に帰り着いた後、自転車で仕事場や学校に行き、その日の暮らしを営んでいる時、鉄道の駅まで自転車に乗って駐輪場に自転車を停めて、電車内で本を読んだり音楽を聞いたりしている時、自転車は何をしているだろうか。

他の乗り物についてはどうだろう。自動車は駐車場に停められるし、自動車よりも昔は移動に馬を使っていたのならば厩舎があっただろう。飛行機には格納庫があるし、鉄道は基地に戻る車両もあれば、留置線で次の始発を待つ車両もあるだろう。自転車はどうだろうか。あなたの住まいでは、自転車はどこに格納されているだろうか。その前に、自転車の格納方法やその環境について深く関心をもったことがあるだろうか。

自転車の格納方法に関しては従来、機能性が重視されてきた。その一方で、美的側面やスタイルは後回しにされがちだったのではないだろうか。たしかに、自転車ラックなどの収納プロダクトは数多く市場に出回っている。だが、それらは限られた空間を効率的に利用するためのものであることが多い。その結果として、自転車を「詰め込む」状態にしてしまう傾向にある。この現象は室内に限らず、屋外の公共自転車置場においても同様で、沢山の自転車が密集して駐輪される様は、まるでラッシュ・アワーの電車内のようだ。空間の広さにかかわらず、このような状況は一般的に見受けられるのである。


Hangarプロジェクトは自転車の格納についての新しい方法や工夫を提案する。これは単なる自転車の格納場を超えたものを目指しており、自転車文化と都市のインフラを再考する機会を提供する、というビジョンがある。Hangarは、サイクリストにとっての修理とメンテナンスの場所、さらにはリラックスできる休息スペースとしての機能を提供しつつ、自転車利用者が直面する問題に対する実用的な解決策を示すことが使命である。このような場所では、自転車を安全に保管し、手入れをすることができるだけでなく、人々が集い情報を共有し、ネットワークを育てることもできるかもしれない。Hangarは、自転車が単なる移動手段ではなく、ライフスタイルの一部となるような文化を築き上げようとしている、とも言える。

衣服と同じく、自転車もまた私たちの生活にとって重要な要素の一つである。であるならば、洋服を洗濯し適切に手入れするのが当たり前であるように、自転車にもまた適切なケアを施すことに何の不都合もない。洗車や整備を日常的かつ容易に行うことが、自転車を生活の一部として確立するための重要な一歩であり、それをHangarは提唱している。

往々にして、現代の日々の暮らしにあっては、自転車はめんどうくさい。乗る人が体力を使わなければならないし、雨風や寒さ暑さを防ぐ手立てはない。そして何よりこの社会は、自転車に乗るための種々様々のインフラが圧倒的に不足しているため、便利を享受するよりも百歩手前にめんどうを感じてしまうからである。自転車に乗ろうという直前の機運や動機にとって、心地がよくなる空間は重要だ。

このようなたとえ話を耳にしたことがある。

「フランス料理を食べることとマラソンを走ることは正反対である。フランス料理は食事前が最高に楽しみであり、食べ終わると満腹感と胸焼けがして当分食べなくてよいと感じる。マラソンはスタート前が最悪の心地であり走りたくない、つらい、と、憂鬱でしかないが、ゴールにたどり着いて走り終わると、また次のマラソンが楽しみになっている。」

Hangarの役割は明確である。自転車に乗る前の時間と乗り終わった時間の両方を、自転車を格納庫に出し入れしているときを、豊かで楽しく充実したものにすることである。なぜなら、自転車に乗っている時間は最高であるに決まっているからだ。

本連載ではHangarプロジェクトを通して、自転車とともにある日常生活あるいは非日常体験における、自転車の課題と実践とを考察してゆく。

Hangarへコンバージョンされる候補地の初期状態

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